第11話 1週間前と同じ転校初日(月曜日)
「今日からこの学校に転校してきたカナデさんです。クラスのみんなは仲良くしましょう」
「カ……カナデ・ヒアリです! 今日からよろしくお願いします!」
パチパチパチ。
25人ほどの生徒のいる教室にヒアリの元気な挨拶と拍手が教室に響く。
ヒアリは転校してきたばかりの教室を見回す。縦横五列ずつで25席があり、窓側最後尾と廊下側最後尾に空席がある。
ヒアリは確信した。間違いない。一週間前に転校してきたのと同じだ。
(なに……これ。なんなの……一体?)
昨日、この町に到着してから混乱が収まらず、まともな挨拶もできない。
「カナデさん? ほら早く席に座って」
「え? あ、はいっ!」
訳がわからない状態で呆然としていたヒアリは担任から席に誘導され、慌てて席に向かうが途中で転んでしまう。
「ちょっと大丈夫?」
手を差し伸べてくれたのはエリミだった。ヒアリは衝撃でしびれる身体を震わせながらそれを取り、
「ありがとう、エリミちゃん」
「えっ?」
ヒアリとしては普通の対応をしたつもりだった。だが、その言葉にエリミの顔は何か不可解なものを感じ取ったものになったとはっきりとわかった。
直感で瞬時に理解する。このエリミはヒアリのことを知らない。話したこともない。
「えっと……」
「カナデさん大丈夫?」
「あ、はい」
「じゃあ席に座って。これから出席を取ります」
ヒアリは弁明しようとするが、担任の声に遮られ、エリミは関わらないようにしようという感じで手を離し前を向いてしまう。すごすごと仕方なく席に座った。
担任がしばらく出席を取り続けたところで、
「ミチビキさん……は来てないみたいね。特に連絡は来てないけれど……」
ヒアリも廊下側を見ると一週間前の転校初日でツキエが座っていた席には今は誰もいなかった。
ほどなくしてホームルームが終わり、担任が教室から出ていく。一時限目の授業待ちの時間になるが、前のようにエリミが後ろを振り返ってこない。
(どうしよう……警戒されちゃってる)
周りに嫌われたり避けられたりするのが極端に嫌がるヒアリにとってこれはあまりにも辛かった。
「あ、あの……」
「……なに?」
声をかけてみるも、帰ってきた返事は不快感は感じないが、半分だけ顔をこちらに向けているのでやはり警戒している。
「私、カナデ・ヒアリっていいます。さっきは驚かせちゃった。教室来る前にちょっと見かけて名前を聞いていたから、ついそう呼んじゃって。いつも学校では名前で呼んでいたからその癖なんだ」
これは完全に嘘だった。しかし、ヒアリは相手を安心させるためならば、誰かを傷つけたりしない限り多少の嘘は方便になると信じている。
これにエリミは完全に顔を向けてじーっと見つめてから、
「そうなんだ、ごめんね。こっちも知らない初対面の人から言われてちょっとびっくりしちゃった」
「いえいえいえいえ。私こそすいません」
ペコペコと謝るヒアリ。
その後は先週の『転校初日』と同じように会話してエリミと親睦を深める。
しかし、こっそりとこのおかしな状況について何気ない会話で探りを入れたりしてみたものの、やはりエリミは全く気がついていなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます