第3話 転校3日目(水曜日)

「ねー、エリミちゃん。ちょっと聞きたいんだけどいいかな?」

「なに?」


 ヒアリが転校してきた三日目、クラスメイト一人ひとりと交流して仲良くなってきたが、今日もミチビキという少女は登校しておらず、廊下側最後尾は空席になっている。


 エリミはヒアリの視線で察して、


「ああツキエ? そういえば今日も来てないわね」

「まだ挨拶できてなくて……」

「そんなに律儀に全員挨拶して回らなくてもいいじゃない。クラスおんなじなんだからそのうち話す機会もできるでしょ」

「でもやっぱりきたばっかりだからちゃんと顔を合わせて自己紹介しておきたいんだよね……。出来たら家まで言って挨拶とか」

「変なところで律儀ねえ」


 そうため息を付きつつ、


「あたしも去年同じクラスだったから話とかはしていたけど、一緒に遊んだりするような友達でもなかったから、力になれることはあまりないかな。先生に聞けば理由ぐらいは教えてもらえるかもしれないけど、家の場所とかは簡単に聞けないんじゃない? ほら最近個人情報とかうるさいし」

「うーん……そうかな」


 残念そうなヒアリ。そんな姿を見て気を使ったのかエリミはしばらく辺りを見回し、教室の前にある本棚のところへ行って、


「写真ぐらいならあるわよ。前に集合写真を撮ったのが確か一枚ここにおいてあったはず……ほら」


 そう言ってヒアリに手渡してツキエを指差す。


「あれ? この子……」


 クラス全員が集まっている中の脇の方で笑顔で立っている黒髪で短くおさげにしている少女。その姿は同い年とは思えないほど幼く見える。そして、どこかで見た気がした。


 ヒアリはしばらく頭を傾かせて記憶の糸をほじっていたが、ようやく思い出し手をぽんと叩いて、


「あっこの子、私見たよ。この町に来たとき駅ですれ違った」

「え、ホント? いつ?」

「日曜日だよ。この町に来たとき駅ですれ違ったんだ。一人で電車に乗っていたからちょっとだけ気になって憶えてたんだよ」


 それを聞いた途端にエリミが思案顔になった。


「日曜日に一人で町の外に電車で? 保護者の同伴もなしに? それで今週から三日間休み? 中学生だから一人で外出とか普通にありえるけど、街の外まで一人で? 塾? いやこの辺りは団地以外は畑ばかりだしここの団地にも塾はあるし、わざわざかなり離れた町に親が一人で送り出す可能性は……そもそも学校が休み続きなわけだし……」

「あ、あの……エリミちゃん?」


 突然ブツブツと独り言を始めたエリミに、ヒアリはやや引き気味になってしまう。

 ここではっとエリミが、


「あ、ああ……ごめん。あたしさー、こういう推理とか推測みたいな考え事が結構好きでさ。世界の果てとか宇宙の果てとかも好きだし、小川を流れる木の葉がどこまで行くのか推測したり観測したりとか。ちょっと我ながら根暗な趣味かなーと思っているんだけど辞められないんだよね」

「わかるわかる! 私も学校に行く時、今日はこの白線の上をあるき続ければいいことあるかも、とかやっちゃうよ」

「いやそれとはちょっと違うから」


 真顔で否定されてしまった。




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