第4話 転校7日目(日曜日)
『アイスクリームアイスクリームだよー♪。ホットドックだよー♪』
「すいませーん!」
日曜日。休日なのでエリミに団地の中を案内してもらっていたところ、移動式の売店が走ってきたのでヒアリは手を振って呼び止めた。
チョコアイスを二つ買ったヒアリは片方をエリミに差し出す。
「エリミちゃん、はいどうぞ」
「いいわよ。悪いし」
突然の奢りにエリミは自分の財布を取り出そうとするが、ヒアリはストップさせて、
「気にしないで、案内してもらっている料金だと思って」
「……ごっつあんです」
なぜか神妙な面持ちでエリミはチョコアイスを受け取る。
それから二人は食べつつ団地内の散策を再開した。
「でもこんな団地の中を歩いても仕方ないでしょ。古ぼけた建物がたくさんあるだけだし、せいぜい変わった給水塔がいくつかあるぐらい。海の方は工場地帯で埋め尽くされているし」
「そんなことないよー。こういうところは今まで来たことなかったからすっごい新鮮だよ! 迷路って感じだし」
「……それ褒めてる?」
ジト目で困惑顔になるエリミ。しかし、ヒアリの方は心底楽しそうで団地の建物のスキマにある公園、ゴミ捨て場、自転車置き場などをワクワクしながら見ていた、
二人は車道から建物の間を細くうねるような続く遊歩道に入っていくと、外壁が薄汚れた建物の中で目立つようにきれいな白で塗りたくられている外見の建物が現れる。
「あの建物綺麗じゃない?」
「ああ、あれは外壁だけ塗り直したのよ。ちょっとこっちに来て」
エリミに連れられて団地の外れに移動する。そこには工事車両が複数停まり、建設用の資材が庭に無数に置かれている。そして、団地の建物は工事用の足場とネットで完全に覆われていた。
「今、団地で大規模修繕やってんのよ。といっても外壁の塗装だけ塗り替えているだけだけどね」
「古いから?」
「そうそう、もう築50年近い建物ばかりの団地だから。コンクリートだけどそのまま雨風にさらされると劣化するから塗装して抑えるのよ」
「それじゃまだ当分は住めるようになるってこと?」
ヒアリの質問に、エリミはうーんと唸ってから、
「そうでもないかなぁ。外壁はなんとかなるけど、中の水道管とか下水管みたいな配管がもう腐食で限界らしいのよ。見てくれや部屋の内装はかなり綺麗にできるんだけど、共有しているそういう部分はどうしてもね。交換の工事も結構手間がかかるから、いっその事団地の建て替えも検討しているらしいけど、ほらお年寄り多いからお金の問題とかあるじゃん? 子供はこの団地から出ていってしまって、残った親は別に無理して立て替える必要も感じてないからなかなか賛成が集まらないのよ。あとデベロッパー――ああ建て替え計画をする業者なんだけど、それも住民とのすり合わせが難しくてね。もっと都心よりのところとかだと高層マンションを立てて新しい人たちにもマンションを販売して既存の住人の負担を軽くしようという案もあるらしいんだけど、ここ立地条件が都心からも微妙に離れているから難しいのよ。団地の自治会で建て替え推進委員会とか立ち上げて話し合いを続けているけど、やっぱり――」
ここではっとエリミは口を止める。あまりにも一方的にべらべら話し続けてしまっていることに気がついたのだ。
それに対して、ヒアリはかしこまったように手を差し伸べ、
「どうぞ続けてください」
「やめてよ! 余計に続けづらいわ!」
エリミは顔真っ赤にしてしまう。ヒアリは笑顔のまま、
「ていうかエリミちゃん詳しいね?」
「こういうことはどうしても気になるから、ネットで調べたり管理組合に乗り込んで資料もらったりしちゃう性分なのよ」
なぜか恥ずかしげに答えてしまうエリミ。他の人と違って趣向が変わっているという自覚があるのだろうとヒアリは思った。
気を取り直して、
「ちなみにここの五階があたしの家、工期が押しているらしくて日曜日もガタガタうるさいったらありゃしない。まあ正直言うと今日あんたに付き合ったのもそれを避けたいってのもあったんだけど」
ややバツの悪そうに言うエリミにヒアリはいつもの純真な笑顔を浮かべて、
「ううん、全然問題ないよ。私は嬉しいな。こんなにお話できる友達ができたから」
「……うるさいわね。恥ずかしくなるじゃない」
またエリミは顔を真赤にしてしまった。
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