第一章 「新しい町」

第1話 転校前日(日曜日)

 ガタンゴトンガタンゴトン。

 電車の走る音が車内に響き渡る。その音はしばらくしてトンネルに入るとゴーという音に切り替わった。


 電車内にはまばらに乗客が座っているだけ。かなり歳を取った人が多く、子供や若者はいないので電車が発する音以外は何も聞こえない。 


 カナデ・ヒアリはそんな殺風景な電車の座席から外を見ていた。やがて電車はトンネルを抜けて青空が窓に映し出される。


(おお……これはまたすごい感じっ! まるでSF映画に出てくる要塞みたい!)


 思わず感嘆の声を上げてしまいそうになるが、話し声のしない電車内なので口の中だけで済ます。


 ヒアリの座っている側の窓からは巨大で長大な工場地帯が並んでいた。モクモクと白い煙を上げる複数の煙突、パイプむき出しの施設、規則正しく並ぶ貯蔵庫。閑静な郊外で生まれ育ち、今まで2年間続けた旅でも見なかった存在だ。


 反対側の窓からは5階建ての建物がずらっと並んでいるのが見えた。外壁がくたびれた灰色のものが多数の中、一部最近塗られたとみられる青っぽいものやピンク色のものがあったが、建物の形状やオーラといえるモノが明らかに昔の建物だとはっきり見て取れる。そんな建物が規則的に並んでいるかと思えば途中から不規則になったりして数十以上ひしめき合っていた。40年以上前に作られた巨大な団地である。


 ヒアリはそんな町の様子を見て、興奮が止まらない。


(ここならきっと新しいことに出会える! 私の知らない見たことない街だから!)


 今日で一人旅を始めて三回目の転校。今まで一度も失敗しなかったが、今回も上手く生活できる。そう確信していた。



 やがて電車は目的の駅にたどり着き、ヒアリも荷物を手にして降りる。

 

 改札を出たところで、一人のおさげの少女が入れ替わるように電車に乗っていった。おさげでかなり幼く見えるが、親の姿は見えず一人っきり。

 一瞬ヒアリはそんな少女が気になり振り返ったが、すぐに電車に乗り発車したためすでにその姿はなかった。

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