百五十五振目 刀剣関係のダークな部分3

 ある人が悪戯を思いつきまして、鎌倉中期の無銘刀(特重)を某団体の鑑定に出しました。すると、印鑑がバンバンと幾つも押された鑑定書には、新々刀の古刀写しと記されていた。

 では実物はどうかと観せてもらえば、刃文も地鉄も特重の鑑定が頷ける出来と柔らかさがあって古刀の貫禄があって淡い映りもある。これがどうして新々刀に鑑定されたか理解し難いぐらい誰がどう見ても古刀。

 ただし弁護するのであれば、古刀という情報が念頭あるから思うだけで、何も知らない状態で見てしまえば、その抜群の健全性からかえって警戒してしまい、新々刀と間違えてしまう可能性も確かにあるかもしれません。

 悪戯成功な人は腹を抱えて笑ってましたが……なかなかに奥深く難しい話かと。

 鑑定というものは難しいという闇……。


 しかし、日刀保の鑑定とて間違いが多いのも事実だったりします。特に保存や特保の段階でそれが多く、本当に首を捻るものだって沢山ある。

 運が良ければ重要申請時で訂正され合格(来国俊→延寿とか)という事もありますが、大抵は直される事もなく、鑑定が微妙という理由(自分たちで鑑定しておきながら)であえなく不合格。

 そうなると本来なら余裕で重要合格という出来の刀剣が、特保から進めず宙に浮いてしまう奇妙な現象が生じる。

 だから出来と健全性が抜群に良い特保刀剣があると、店などの玄人は警戒する。事情通なため「これは出来が良すぎる日刀保が鑑定を間違えたに違いない。重要にはならないな」と警戒して買わないわけです。

 大抵はそのヨミ通りなのですが、極々希に本物が紛れて特重レベルの特保が転がっていたりするので始末に負えない。もちろん特保から先に進めないので、鑑定書偏重の現代では素晴らしさを認めて貰えず闇に埋もれてしまうことになる。

 昨今は刀剣商も鑑定書ありきのため、刀をまともに見たり評価したりする事はない。全ては神ならぬ紙だのみ。

 でも念の為ですが、そうした埋もれた刀剣を狙って探すのは賢くない。狙って買おうとすれば痛い目に遭うのだけなので、普通に自分が良いと素直に思った品を買うのが一番。


 鑑定書ありきという部分で言えば、買う側はもっと酷い。

 特に男性の場合は権威に弱いため、鑑定書をありがたがって絶対視する。さらに鞘書き、○○大鑑所載、重要美術品、大名登録といった言葉に弱いので、そうした刀にコロッと参って買ってしまう。

 では女性の場合はどうかと言えば……そうした事にはあまり拘らないものの、自分の好きな刀工に対する執着が強い、もとい特定刀剣を執拗に買う場合が多い。そのため、そうした特定の刀剣という名にコロッと参ってしまい無鑑定でも買ってしまう。

 そんな傾向があるのだそうですが、でも自分が何が欲しいか、それで行動しているだけなので別に構わないのでしょうが。


 刀剣の闇、そこに絡め取られると抜け出せぬ。

 前に述べましたように、刀剣というものは同銘作であっても値段が違います。その値段に影響するのは「長さ・重ね・状態・健全・出来栄え・刃文・来歴・鑑定状態etc」となるわけです。

 しかし、それを良い事に百万の品を二百万で売るような店もある。そうした店で買ってしまうと、そこに絡め取られて抜け出せなくなってしまう。

 上記の例でいきますと――。

 A店で本来は百万程度の品を二百万で買ったとします。もしそれをB店で売ろうとすれば、当然ながら本来は百万なので買い取り額は六十万か、下取り額でも七十万程度にしかなりません。

 しかし本人は二百万を出した品のため、そんな値段では手放せない。

 そうするとA店に文句を言いに行くものの……A店は断るどころか、平然ともっと安く二十万でしか買えないとさえ言う。しかし、そこですかさず、もし三百万の刀を買うなら百四十万で下取りしても良いと囁く。

 冷静に考えれば怪し過ぎて胡散臭い。

 次の三百万という刀の値段も額面通りには信じられないのですが……この時点で本人は追い詰められている。冷静な思考ができる状態でもない。そのままでは六十万程度にしかならない品が百四十万になるのなら! と、百六十万を出して三百万の品を買ってしまう。

 後はもう同じ事の繰り返し。

 損をしたくない一心で、次も下取りをA店に頼んでA店で買ってしまう。

 自分が騙されていると薄々分かっていても、それが認められない。だんだんと感覚が麻痺しだすとA店に感謝さえしてしまう。

 そしてB店を恨みだす。

 なぜならB店の意見さえなければ、本人にとって刀は二百万の価値ですし、次に手に入れた刀も見かけ上は(A店との売買の上では)三百万の価値がある。だから辛い現実を示したB店を恨み、自己正当化のためA店を素晴らしいと思い込む。そして、A店が良い店でB店は酷く悪い店だと喧伝さえしだす。


 なお、こうした人は心の中ではA店に騙されていると分かっている(つまり認知的不協和)ため、そこを指摘し現実に引き戻そうとすると(たとえば誰かがA店を批判したりB店を褒めたりしただけでも)、烈火の如く怒りだし徹底的に相手の意見を否定し、A店が良いと認めさせようとしてきます。

 こうした反応は独特ですし、必死さがあるので直ぐに分かります。

 この辺りも闇と言えば闇でしょうか。


 そして最近はちょっと問題になってますが。コロナの影響で人が東京に行かず、地元付近の刀剣屋で刀を手放し新たに買おうとする……のですが、そこで発覚するのが上記のようなこと。

 東京A店で二百万で買った品を地方B店に持ち込み手放そうとする。

 買った本人は百五十万、百六十万で考えていたものが、地方B店で八十万と言われて値段が折り合わない。絶対に自分が騙されていたと信じはせず、あくまでも地方B店の買い取りが安いだけだと信じきる。そしてせっせと悪評を撒き散らしている人もいる。

 ただし、東京だから高い安いではなく、あくまでも各店舗での問題なのですが。コロナのせいで客が普段行かない店に行くので生じている現象。慣れている方も、たまには別の店に行って値段を確認した方がよろしいかと。

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