百五十四振目 刀剣関係のダークな部分2

 骨董の世界には旗師と呼ばれる人々が存在します。

 つまり店舗を持たず、独自の伝手や市場等で買いつけを行っては店に卸す人の事です。ただし、こうした人は得てして闇社会のダークサイドに半分ぐらい足を突っ込んでいたり。

 なにせ真っ当な手段で良い品は手に入らない。後ろ暗い部分や黒よりの灰色であるからこそ、どこからか品を調達してこれる……。

 もちろん刀剣関係でも旗師は活躍しており、ダークな世界が存在するわけです。


 刀剣店にしても客からの買い取り市場での仕入れ以外に、そうした筋の人々と取り引きをしてます。もちろん品の入手だけでなく、旗師に依頼し品を探して貰ったり、もしくは出物の噂「○○の××さんが□□を売りたがっている」を入手したり。その付き合いは深い。

 だから旗師との縁をきらさぬよう、コロナ禍で市場が殆ど機能しない間も市場に出向き、少しでも顔つなぎをしているぐらいです。

 というわけで……ニコニコ笑顔な優しい刀剣店主さんも、半ダークな人を相手にできるだけの恐さがあって清廉潔白とは言い切れない。清濁あわせ呑んだ裏の顔もある事を忘れず、優しい表の顔だけで甘く見て調子にのらぬよう注意しましょう。


 ダークサイドに足を突っ込んだ旗師と一般人の接点は、かつてであれば存在しなかった。しかし昨今は普通に接点が生じています。

 それがヤフオクなどオークション。

 ああした出品者はプロ業者。

 その大半が旗師、または旗師に近い骨董商。

 オークションは騙される、危ないとお伝えしてきたところですが。しかし、こう思う人もいるのではないでしょうか、「それだけ危ないのなら商売として成り立たないのでは?」、または「詐欺紛いなら警察に捕まったり裁判になったりするのでは?」と。

 確かに怪しげな品を売ればトラブルがつきものですが、それでも平然として続けられる理由は相手が半ダークサイドの人だからです。トラブルなんてなんのその、逆に相手に食いつき押し返すぐらいの根性。

 道を歩いて肩がぶつかったからと、半グレの相手と揉めますか? 揉めて勝てると思いますか? 仮に勝てたとして平気ですか? オークションが恐いのは、そういった点もあるからです。

 何にせよオークションに怪しげな商品が尽きぬのは旗師の暗躍があるからです。

 闇ですね……。


 昨今のコロナ影響は大きく市場にモノが出ない状況(多少改善したかな)です。もちろん、この旗師の影響も多い。旗師は基本的に不況に弱いと言われるので、あまり刀が動かない状況だったので。

 旗師はさておき、東京界隈の店はそもそも客が来ない。

 だから買い取りでガンガン刀剣を回していた店はかなり苦境。特に海外メインに売りさばいていた店は更に苦しい状況。売り口上も変化して、何でも名品・何でも大名家所有・何でもお勧めになってる店もあります。苦しい時こそ本性が現れる。

 何にせよ刀が動かない。

 2020大刀剣市が中止になったのはコロナの影響ですが、しかし11月のイベントが早々に中止になった理由は感染対策だけではないです。

 つまり品がないからです。

 なにせ大刀剣市です。店としては、それ相応の品物を用意せねばならない。しかしそれが手に入らない状況のため、早めの決断で中止というわけです。ほっと胸をなで下ろした刀剣商も多いのではないでしょうか。

 ちょっと闇というより暗いですね……。


 品物がないので大刀剣市も厳しい部分もあるのですが、これはコロナ以外の影響もあります。それが、お金持ちの二大巨頭。ここ十年から十五年ほど刀剣を買い続けたことで、良刀が市場が消えているという理由もある。

 とくに二年ほど前から、目に見えて良刀が減っているのが今の実態。

 ただし、刀剣店に言わせると心配する必要もないという事で……これがまた闇を感じます。つまり、その二大巨頭も刀剣を買い漁った事で各方面から恨みを買いだしたからだそうで……。

 それが刀剣愛好家の恨みかと言えば、さにあらず。

 つまり、日本刀は刀剣愛好家でなくとも必要で買う人が存在します。そうした人の為に、刀剣独特の売り方として「価格はお問い合わせください」「価格応談」といったものが存在するわけです。

 ここで話は変わり。

 価格応談とある正宗を五千万円買ったとしましょう。ですが、この値段は表示されておらず当事者同士以外に価値は不明。しかも美術品ですので定価は無い。いかに正宗と言えど鑑定書を外せば単なる刀で価値は不明となる。

 そして遺産相続の場合、美術品の評価額は税務署ではなく所有者が算出し参考として提出します。そのため購入価格を参考としたり、美術商による査定価格が使われるわけです。

 そうなると、極端に言えば五千万円の品が五万円になったりもする。大きな節税ですね。そして相続した遺族が頃合いを見て購入店に正宗を持って行けば――ムニャムニャ。実際はこんな単純ではないですが、お年寄りなどが刀を欲しがる理由は、そんな部分もあったりです。

 価格応談ばかり売ってる店に行くとですね、どう見ても刀剣に興味の無いご高齢のご夫婦が訪れ相談していたりしますね、はい。

 ですから「価格応談」とある重要美術品は売れますが、値段が表示された(もしくは過去に表示された)重要美術品はあんまり売れない。はたまた「ご相談下さい」とある品に一般人が問い合わせると、惚けられたり売れないと言われたりするのは、そういう理由もあったりします。あと重要美術品や一部の重要文化財など所在不明が妙に多いですよね、とても多いですよね、多いですよね……。別にコレクターが死蔵しているわけではないって事です、はい。

 なんにせよ、そうした闇が存在する。

 ですが二大巨頭がやりすぎ、市場の高級刀剣が大幅減になってしまった。

 これに迷惑する方々が世間に多数存在しだしている。お金の恨みは根深いわけで、少なくとも好印象は抱いていない。明治時代に刀剣が市場に解放されて以来、時には刀剣を買い漁って独占しようとする大金持ちが存在したわけですが、しかし必ず市場に刀剣が戻って来るのは……。

 いろいろ闇深い。


 そのお金持ちも昨今は合格本数が減少気味。

 ただしこれは出品数が減ったのではなく、合格出来る水準の刀が減ったからという見方が強い。つまり、あちらでも良い品が手に入りづらくなりだしたという事。当然ながら市場の良い品はもっと減っている。

 これから先の重要や特重は水準が下げられるのか、それとも本数を減らしていくのかは分かりません。なんにせよ、良刀の奪い合いが始まる(始まっている)。

 そんな感じで今回の特重合格者の半分ぐらいが刀剣関係者かーと話していたら……刀剣店曰く実際にはもっと多いそうで。たとえば外国人風の名前の合格者、それ全部海外ブローカーの超目利き。さらに、この名前もあの名前も刀剣販売に携わる人と示された。

 個人で合格したのは本当に凄い事と言われたものの、全く嬉しくない。誰のための何のための審査なのか。

 これまた闇……。

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