百十五振目 刀鍛冶と研ぎ師の資格
刀鍛冶は国家資格が存在し、資格保有者の元で三年以上の修行を積むと受験資格が得られます。そして試験は三日程度かけて行われ、その途中で少しでも手間取れば不合格となるそうで合格率は50%程度だとか。
それぞれが、しっかり修行し師匠のお墨付きを貰っての受検のはずですが、その合格率ということは……なかなか難関。
居合い道場に来ていた刀鍛冶の卵から聞いた話などを幾つか。
刀鍛冶の修行期間は当然ながら無給! 生活費は別途自分で用意。自分でアパートを借りコンビニでバイトしなが刀鍛冶の修行。古典や歴史のみならず、鉄に関する勉強など科学関係もあるそうで。しかし作刀関係となると、日々ひたすら炭を切ったり、鉄を運んだり掃除や片付けと地道な作業ばかりとぼやいていた。
叩いた時の火の粉(焼けた鉄片)による火傷は治りが遅いとかで、表面上は治ったように見えても何年かすると肉が盛り上がり(つまり中の肉が焼けているため)黒い瘤やシミのようになると心配していました。当然ですが、火の粉は顔にも当たりますので……実際どの程度になるかは知りませんが。
残念ながら彼は刀鍛冶にはなりませんでした。
『なれなかった』のではなく『ならなかった』のですが、理由は刀鍛冶になっても生活できそうにないから。なお、そこに至った切っ掛けは「鍛え疵が物打ち付近に出たら師匠が激怒しそれを壁に叩き付け踏みつけた」からだそうで。その瞬間に全ての熱が冷めたのだとか。
よくお世話になっている刀鍛冶の元で女性が修行していましたが、こちらは一年も満たず止めたそうで。なにやら、ある日突然来なくなり探しに行くとアパートも引き払ったあと。何かの事件に巻き込まれたかと心配になり、なんとか連絡をとってみれば……毎日下働きみたいに炭を切ったり、材料を選んだりばかりで面白くないし刀をつくらせてくれないから止めると言われたそうで。
で、刀鍛冶いわく――今日来て明日刀が打てるなら誰だって鍛冶師になれる。指導したからと何か見返りや報酬があるわけでもなく、暇財(つまり時間という名の財)を費やし指導をしている。遊び気分や興味本位で、カルチャーセンターに通う程度の感覚で来るのは止めて欲しい――だそうです。
うん、まあ……今の時期に女性の弟子入りは、よくよく相手を見ないとダメと言っておいたのですけどね……。
それはさておき、こうした事があるので刀鍛冶は弟子を取りたがらない。せめて弟子が刀鍛冶の資格を取得したら、師匠に報奨金が出るような仕組みでもあれば良いのでしょうが。
次は研ぎ師。
こちらは別に免許制ではありません。刀鍛冶と違って、ちょっとしたスペースと砥石と水さえあれば完了。今日から研ぎ師と看板を出せば誰でもなれてしまいます。
それは極端としても、研ぎ師の元に月数回通って半年ほど講習を受け研ぎ師となる人もいます。それが悪いとは言いませんが、何にせよ研ぎ師はよくよく選ばないと駄目です。
よく言われる事ですが、「下手な刀鍛冶は駄作を残すのみ。下手な研ぎ師は名作を台無しにする」という事ですので。
研ぎの技術はそう簡単でもありません。細かい部分はググれば出るので省きますが、まず下地研ぎをして上地研ぎで綺麗にしていきます。
一番大事なのは下地研ぎでして、ここが決まるか決まらないかで刀の見え具合は全く違ってきます。しかし上辺だけ磨けば刀を見慣れていないと、そこそこ綺麗に見えてしまうのもまた事実。
しかし大抵の場合において個人で研ぎを依頼する人は刀に詳しくない。なにせ刀に詳しければ刀剣店経由だったり、まともな場所を知って頼みますので。そうなると、適当に研がれた状態で喜んでしまって騙されてしまう。
五十万六十万と出して人間国宝に依頼する必要はありませんが(ただし、そもそも伝手がないと依頼できませんが)、しかし妙に格安な場所に依頼するのも危険かと。
研ぎには日数がかかり、それに対する拘束時間が発生。砥石を消耗しますし、技術料というものもあります。安くしようとすれば、気付かれにくい場所で手を抜きますが、そうなると一番手間がかかって砥石を消耗し、直ぐには出来の差が分からないような場所で手を抜くわけです。
その他の手抜き以外で最悪なのは、早く仕上げようとガンガン削る研ぎ師です。重ねが明らかに減り、姿形も同じ刀かと疑いたくなるぐらい改変されてしまう場合もあります。自分の出来る許容量以上に依頼を受け仕事溜め込み、依頼を受けて一年以上も放置といった事もあります。はたまた砥石以外で刀を磨く研ぎ師もいるという噂もあり……。
リスクを少しでも回避したければ、必ず刀剣商を通して依頼すべきかと。そもそも良い研ぎ師が誰かを一番詳しいのは刀剣商ですし、研ぎ師など職人に物申せるのも刀剣商だけですので。
ただし、どうしても個人で頼みたい場合は、せめてHPをよく確認しましょう。
受賞歴があれば、それを並べ立てています。賞を取っているので腕が良いとは言えませんが、少なくともまともな研ぎが出来る証明になります。
研磨記録があれば、そこにUPされた研ぎ具合を確認しましょう。刃文や地鉄の見え方など写真では見えにくいですが、UPする側も見えやすいように出しているはずです。
後は日刀保の現代職人展を見に行き出来栄えを確認するか、もしくはHPに公表された現代職人展の受賞結果を確認するか。大事な刀を任せるのですから、よくよく確認する必要があります。
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