百十四振目 新藤五国光の比較

 新藤五国光の作はそうそう市場に出ないはずが、少し前までに七振りほどパタパタ出てました。いずれも瞬く間に売れていましたが、やっぱり特定の時期に特定の銘が集中して出る傾向があると思う……。

 幸運にもその内の三振ばかりに関われたので比較して感想なんぞを。


 まず全体を通して感じるのは、新藤五国光は相州伝の祖と言われるものの明らかに相州伝ではないといったこと。作風としては山城伝の粟田口系統に区分すべきもので、正式な相州伝は正宗かその次代からと思います。

 以前に観せて貰った行光を思い出してみますと。

 国光は山城伝で、行光はその延長線上であり相州伝への過渡期。正宗という異質の天才によって荒々しく強い相州伝が生じたのかな。とはいえ、今や五箇伝による区別は時代遅れですから、どうでも良い事かもしれませんが。


 その国光ですが、ものによって出来が違います。

 如何に名工と呼ばれようと出来不出来があるのか、国光でも数代あるので、その差による違いかは分かりません。

 在銘(以下、A、C)、無銘(以下、B)で、AとBは特保、Cは特重(徳川家伝来)で、出来はC>B>>A、値段はC:A:B=5:1.7:1となります。

 なお、無銘は「無銘(新藤五)」との鑑定ですが、新藤五国光の無銘はそのように鑑定されるので同一として扱っています。

 ちなみにデーモンルーラー3巻登場の国光短刀はCとBを合わせたものがモデルだったりします。これこそ、どうでも良い事かもしれませんが。


【茎】

 茎はどれも良い錆に覆われ、落ち着いた濃い黒味を帯びたものです。よくある刀剣の茎ですと灰色や赤茶や黒+赤茶といった錆色ですが、三本とも手入れが良いため錆が抜群に良い。

 銘は鮮明ですし、目釘孔も趣きがあり古い時代のもの。

 端は摩耗して丸味を帯び硬さ(比喩的表現として)ない。

A:幅も厚みも殆ど変化しない。鑢目は見られず、細鏨大振りで「国光」と鮮明な銘振り。目釘孔は達磨と、孔一つ。

B:幅は殆ど変化しないが厚みは薄くなっていく。(古剣の茎と似た形状)鑢目は見られず、槌目跡のようなものがある生ぶ無銘。目釘孔は達磨と、孔一つ。

C:幅も厚みも全く変化しない。鑢目は見られず、最高に滑らかで良質な錆に覆われ、太鏨で「国光」と鮮明な銘振り。目釘穴は孔一つ。


【刀身】

 明らかに出来の差があります。

 いずれも鉄色は明るいものの、Aは肌立ち過ぎてどうにも良くない。BCは肌詰んで緻密で梨子地肌。大きな板目・杢目が見られ、肌が流れる箇所もある。

A:平造、三ツ棟、身幅・寸法尋常、重ねやや薄、内反りつき。三ツ棟の中筋がやや細め。地鉄は肌立ち気味に板目、杢目を交え僅かに流れごころ交じる、地沸よくつき地景入る。鉄色は白く明るく冴える。刃文は細直刃、匂口よく締まり、沸出来。帽子は直ぐに小丸。

B:平造、三ツ棟、身幅・寸法尋常、重ねやや厚、内反りつき。地鉄は肌詰み小板目、杢目交じり、地沸よくつき地景よく入って沸映りある。鉄色は黒味を帯びつつ明るく冴える。刃文は中直刃、匂口よくしまり、小沸出来。刃中に金筋が頻りにある。帽子は小丸で掃きかけ。

C:平造、三ツ棟、身幅尋常、寸法やや大振り、重ね厚、僅かに反りつき。三ツ棟の中筋が太い。地鉄は極めて精良で詰み、肌目の中に地沸と地景がよく入り奥行きがある。鉄色は白く明るく冴える。刃文は中直刃、匂口が極めて締まり刃中に金筋が激しく入る。帽子は直ぐに小丸。


【彫り】

 新藤五国光は鎌倉在住のため、当然ながら鎌倉幕府と関係の深い真言宗系の彫りを残しています。なお素剣は相州伝らしい形状ですが、後代の相州伝ほど頭が張ったクビレではない感じでした。

A:表に梵字(不動明王)と素剣、裏に梵字(大日如来)と護摩箸。頭があまり張らず彫りは研ぎ減りで浅い、中央の線は残り気味。

B:表に素剣、裏に梵字(不動明王)と腰樋。彫りは研ぎ減りつつも深い

C:表裏に刀樋。


 Aは在銘ながら出来が今ひとつ、出来に差があるのは国光にも数代あるからなのか、名工といえど常に名品が出来るわけでもないのか……。特保ですが、これは特保以上には間違いなく行けない。


 Bの出来は素晴らしく短刀の最高峰と言われる理由が判る地肌をしています。金筋もウネウネ入り、翁の髭も現れ沸映りも明瞭。こちらも特保ですが、恐らくは上に行ける可能性が高い。そういった品ですので、店は店頭に出す前に上得意に声をかけて売ってしまった。


 Cの徳川家伝来の品はさすがと言うべきか、もう別の国光というぐらいの出来。特に健全性には驚かされ、全く研ぎ減りしておらず刀身と茎の厚みに変化を感じない。先から茎尻まで厚さに変化を感じず、手に持ったときの重厚感が凄い。刃文の出来も太い金筋が元から先までバリバリと明瞭。肌の詰みは精緻で鉄の色合いもあって雲海でも見るぐらい。姿形もABよりもどっしりしている。


 Cは別格として、AとBは出来がB>>Aなのですが、銘の有無でA:B=1.7:1……日本刀を楽しむ上で何が大切なのか、本当に考えさせられてしまいます。

 以上三振りなのですが、実を言えば後二振りも少し観てまして……。

 それがどうかと言いますと、再刃と繕い刃。流石に再刃は150万程度でしたが、繕い刃はBよりも高い値段。どちらも銘ありで、銘は凄く良い状態。さて、誰が買ったのか。まだ市場を動いているのか……。

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