百十振目 剣2

 剣となりますと、鑑定としては「古剣・大和古剣・剣(千手院)」といったものが存在しております。当然ながら他国の鍛冶も剣を鍛えています。

 粟田口にしても備前にしても山城(来派)といった有名処は当然として、寺院があれば依頼があって剣を鍛えていました。鑑定としては「剣(銘 ○○)」といった感じになりまして……しかし「剣(無銘 ○○)」といったものは無いです。もちろん私が知らないだけで、実際には一本ぐらい存在しているかもしれませんが……とりあえず無いという前提で。


 各流派とも剣をつくる場合は、すべからく同じ鍛え方をするようです。つまり備前だろうが相州だろうが何だろうが、小板目に柾などが交じり刃文は直刃といったものになります。

 ちなみに、神仏に奉納する品には銘を入れない事が一般的です。そうなると各流派が無銘の剣を制作しているのが当然。

 在銘品であれば「剣(銘 ○○)」として鑑定できるでしょうが、無銘であれば似たようなつくりをしているため……さて、どう鑑定するのでしょう?

 一方で剣(無銘)の鑑定としては、「古剣、大和古剣、剣(千手院)」しかありません。つまり……それら鑑定の剣に他国鍛冶の作が混じっている。つまり剣の鑑定における避難港となっている可能性が高いという事です。

 そんな気持ちで重要刀剣の図譜を再度読み直し、各鑑定の特徴を拾ってみました。


【時代】

1)古剣

 「平安後期」「平安末期を下らぬ」

2)大和古剣

 「平安時代を下らぬ」「平安末期乃至る鎌倉初期」「鎌倉初期を下らぬ」

3)剣(千手院)

 「鎌倉初期」「鎌倉時代」「鎌倉末期」「鎌倉後期乃南北朝」「南北朝頃」


【地肌】

1)古剣

 「板目」「板目流れ肌」

2)大和古剣

 「小板目肌細かにつみ」「板目」「柾目肌板目流れ」

3)剣(千手院)

 「柾ごころ」「小板目柾がかり」「小板目流れ柾」「板目殆ど柾」「柾目」


【刃文】

1)古剣

 「小沸」「小足匂い深く沸よく」

2)大和古剣

 「小のたれ小足小沸」「互の目ほつれ二重刃砂流し」「ほつれ匂いふかく」

3)剣(千手院)

 「匂い小沸砂流し」「小のたれ小互の目砂流し金筋」「足葉金筋」「ほつれ小沸金筋」


【形状】

1)古剣

 頭が張らない

2)大和古剣

 頭が張らない

3)剣(千手院)

 頭が張る。ただし千手院の中の古剣とされるものは張らない


 以上からすると、

 古剣:頭が張らず板目

 大和古剣:頭が張らず小板目

 剣(千手院):頭が張って柾目が交じる、沸気味に砂流し金線

 といった感じでしょうか。

 そうなると時代区分も本当に合っているのかなと少し疑問が……形状と鍛えが微妙に違うもので、千年前と九百年前をどう区別するのか……?

 今現在の鑑定で西暦1900年と2000年であれば、誰だって区別が付くでしょう。しかし西暦900年と1000年であれば、誰がどう区別できるのか。


 なお、千手院派というものは平安末期から南北朝期に渡っての鍛冶です。ここからすると千手院の剣にも平安末期のものがあって良いはず。

 ちなみに、平安末期から鎌倉初期を古千手院、以降が千手院と。これら千手院系の特徴は小沸に細直刃、肌が良く詰み小板目に柾目交じり、同時代他国より焼きが強く沸の荒いものがつく。

 そうなると柾目出来な平安末期の千手院剣があっても良いような。


 大和古剣と鑑定されている剣の一振りを眺めてみますと。

 小板目肌に柾が交じり精緻な地沸が付き潤いがあって鉄色明るい、刃文は直刃のたれ小足入り匂口締まり、金筋砂流しかかる。形状は頭が張らず古調なもの。

 肌合いや刃からすると、どうにも千手院の雰囲気が感じられます。しかしこれが大和古剣に鑑定された理由はなんなのか。古雅な形状をしているから大和古剣になったのでしょうか。


 それはさておき。

 こうした大和古剣にも怪しい品が(鑑定では無く品そのものが)売られています。これはオークションは当然として、少し怪しめな店でもあります。

 剣は室町・江戸・現代まで幅広くつくられていますので、これを古剣として売っていたりもします。大和古剣であっても、売り口上として平安時代を遡り奈良時代の作として貴重さをアピールしていたり。


 そもそも剣自体が市場に出てくる事は少ないですが、さらに健全な品となると極めて稀となります。普通に流通している品の大半は研ぎ減って(重ね0.5以下)います。または刃先の刃がない(護摩壇で火に炙られて焼き戻った)場合が多い事もあります。

 しかしながら最近は大和古剣でも重ね0.8や0.7といった品もありましたので、出るときは極めて健全な品がでるようです。

 ちなみに重ねだけでいいますと、現代刀工の作による剣で0.85となりますので、大和古剣で0.8を越える品となれば……鎌倉時代からそのまま存在しているという事でしょうかね。

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