八十九振目 重要刀剣の図譜とか証書とか2

 重要刀剣の図譜説明文について。

 そこに刀工や流派の来歴について分かりやすく簡潔にまとめられていますが、これはけっこう使い回し。たとえば新藤五国光であれば、ここ10年ぐらい殆ど変わってなかったり。

 こうした点は古い図譜の方が面白みがあり、同一年に合格した同一刀工に対する文章でも内容を変えていたり(主旨は同じながら)、文字数は少ないものの真面目さや誠意が伝わってきます。

 とはいえ、刀ごとに説明が微妙に異なってはクレームの元ですし、作業も効率化するので仕方ない事なのでしょう。


 刀剣展で販売される際の商品説明を見ますと、図譜の文章を丸写しにした店もあります。さらには写真もなく、図譜の押形を掲載という店さえあります(もちろん押形は実際とは違う場合があるわけですが……)。

 それはそれで店の売り方なのでしょうが、ちゃんとした店は自分で調べ自分の言葉でその刀を説明しています。それが刀に向き合うスタンスの違いであり、そして店の販売スタンスなのかと。


 それはさておき、説明文にある感想や所見について。

 ですが、その前に……重要刀剣の認定時期によって書かれ方は大きく異なります。現在は60回を越えた重要刀剣の認定。それを大雑把に「初期・中期・最近」で分けてみますと、表現具合は以下のように変化しています。

 初期「この刀は○○の所伝はよく○○派の作である」

 中期「この刀は本阿弥光忠が○○と極めているが、作風から見て充分に首肯し得るものである」

 最近「この刀の○○の所伝は正しく、迫力に溢れ地刃共に健全で、同工極めの中でも屈指の優品である」

 といった感じでして……読後の感想が随分と違います。

 初期の頃より、多少は「優品・佳品・健全」など賞賛の言葉はあったものの全てに対してではない。しかし、最近はとにかく何かの形で褒める事がセオリー。

 弊害として古い指定より、新しい指定の方が良いと誤解されてしまいます。


 では実際のところ、初期・中期・最近で何か違うのかと言えば、もちろん変わらない……わけでもない。

 指定の時期によって、店などで扱いが変わる場合もあったりします。

 ただし!

 喜ばれるのは「古い指定品」です。

 概ね第20回ぐらいまででしょうか、刀剣屋では「初期指定の重要刀剣です」などと別格扱いする店もあります。昔のコレクターは「この刀は、なんと第9回指定」と古さを誇ったり、「古い指定品は手放さない方がいい」と言っていた。

 なぜそうなるかと言えば、初期指定の頃は、刀剣趣味と言えば地位・財力のある人ばかり。もちろん目利きも大勢居たわけです。

 それが時代の変遷でバブルもあり刀剣趣味は成金的になり庶民に普及、重要指定も回を追う事に指定本数が増加。図譜冊子を並べれば分かりますが、酷いときには冊子が二分冊された時もあったぐらいです。

 ここ十年ぐらいの指定は引き締め傾向にありますが、以前は「これが重要刀剣? なんで!?」と困惑される刀もあるにはある。


 初期だからと格別ありがたがる必要はありませんが、何にせよ感想や所見だけで判断できない。しかし重要指定の中でもピンキリがありますので、感想や所見に書かれた内容が参考となる事は否めません。

 これが難しいところです。

 そんな感想や所見で着目すべきパターンが幾つかあります。

 適当に分けてみますと概ね以下の通り。こうした文字があるかどうか、書かれた内容がどうかで、重要刀剣の中でピンかキリか。なんとなーく見えてきたりもします。

1)出来がよいパターン

 これは比較的よく出る結び言葉です。重要刀剣の場合は、基本的に出来がよいものです。ですから、あってもなくても気にしない。本当によい場合は「特に」とありますので。

 ・地刃の出来がよい。

 ・地刃健全で出来がよい。

 ・地刃ともに健全で出来が優れる。

 ・匂口が冴えており出来がよい。

 ・地刃の出来もよく、且つ健全である。

2)優品である、佳品である、貴重であるパターン

 この表現があると嬉しい。なお、佳品・優品の意味合いはほぼ同じ。昔は佳品が一般的に使われました。

 ・同工極めの中でも特に優品である。

 ・同派極めの佳品である。

 ・○○も珍しく貴重である。

 ・同工の特色を顕現した優品である。

 ・同工の優品として称揚される一口である。

3)所伝は良い、首肯しうるパターン

 無銘刀の極めで付けられますが、この表現は特に気にする必要はありません。ただし、「本阿弥が」「伝来は」という場合は別で、過去より由緒正しく伝えられているという意味になります。

 ・○○の極めは首肯しうる。

 ・本阿弥光忠が○○と極めているが、作風から見て充分に首肯しうる。

 ・ほぼ首肯しうるところである。

 ・所伝通りの作と鑑せられる一口である。

 ・伝来は正しく首肯されるものである。

 ・所伝は正に妥当である。

4)特色や顕著パターン

 これは文脈によって意味合いが異なるので、ものによります。

 ・○○風が顕著であり、○○の極めを首肯し得るものである。

 ・総じて○○の特色が顕著に示されている。

 ・ほぼ○○の特徴が顕著に反映されている。

5)重要な資料で貴重パターン

 一見すると良いのですが、刀自体の出来の良し悪しではありません。要するに珍しいというだけです。そして重要な資料と言いつつも、何かの研究で使用されるわけでもありません。

 ・年紀のある銘文は資料的に貴重である。

 ・○○研究の貴重な一口である。

 ・研究上資料的にも貴重である。

 ・作域を研究する上で資料的にも貴重である。

 ・○○派を研究する上で資料的価値も高い。

 ・数少ない○○の有銘作として資料性が高い。

6)一作風を示すパターン

 要するに、標準的な作風ではないという事です。後は他の部分の言葉次第。

 ・○○の一作風として認められている。

 ・一作風をよく示した作。

 ・○○の一作風であり、さすがに出来も垢抜けている。

 ・○○の一作風を見せた一口である。

7)典型パターン

 標準刀という事で、良い表現かと。

 ・同工の特色をよく示した典型作である。

 ・同作中、典型的で保存も良く、作風に雅味がある。

 ・典型的な作風を示した一口である。

 ・特色が顕著に表れ、典型的なものであり○○と鑑するのが至当である。

 ・本刀はその典型作である。

8)伝来パターン

 これさえあれば伝来は証明されるので、あると嬉しい。ただし、その分だけ値段もドーンと上がるわけですが。

 ・○○家に伝来した一口である。

 ・〇〇より拝領し、爾来○○家の重宝として伝来したものである。

 ・○○藩主○○家の伝来である。

9)覇気パターン

 概ね同作中でも少し上、もしくは一段上という場合が多い。

 ・覇気ある作風を示して出来が良い。

 ・同作中でも一際覇気を感じさせるものがある。

 ・同作の常以上に覇気の横溢した一口。

10)味わいパターン

 地味だけど素晴らしいと同作中でも少し上、もしくは一段上という場合が多い。

 ・味わいの深い一口に仕上げている。

 ・作柄をあらわして味わい深く、出来の良い一口。

 ・古色を感じさせる渋い味わいの作品である。

 ・細かな働きが味わい深い一口である。


 あくまでも、各パターンに対する意見は個人の感想です。どれがどう良いかは刀を観なければ判断できませんが参考までに。

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