九十振目 茎は情報の塊
茎は情報の塊。
特に錆が大事である事は言うまでも無く。再刃偽銘偽造が分かるだけでなく、場合によって刀の出来まで分かります。良い刀の茎は良い錆に覆われている。
それはともかく、茎の錆がどんなものか?
あんまり錆について触れた資料は存在しない。
もちろん資料もあります。ありますが、たとえばプロ目線の偽銘かどうかの判別で「茎の錆にムラがなく、塗ったように平均的なものは後付け錆の可能性があり、茎尻や鎬筋に光った(鉄地が出た)箇所があれば怪しい」といった感じ。
見た目、手触りそんな事に触れた資料は(あるかもしれませんが、見た事がないので)ない。確かに錆も十人十色ならぬ、十刀十色のような部分がありますので一概には言えず、それを説明する事は難しいかも。
そんな事を念頭に錆と茎について。
大事にされた刀は良い錆が付いています。重要はともかくとして、特重クラスの刀ですと、もう茎からして違う。茎を見ただけで名刀と分かるぐらいです。
良い茎は錆も含め全体として落ち着きがあり、ムラがなく均一で緻密に付着し、見た目に艶がある。そして凹凸や粒など荒れた箇所がない(ただし、普通に伝来している刀であれば、茎のどこかに多少荒れた箇所があるのは普通)。
特重ではないものの、幾つかをみた感じ。
1)鎌倉時代初期か平安時代作で恐らく鎌倉時代に磨り上げられた茎。
全体が落ち着き表面の錆は滑らかで、錆び際まで殆ど均質な付着具合。
2)鎌倉時代初期作で生ぶ茎、加持祈祷に使用され何千何万回と触れられた茎。
全体がテラテラで滑きぬかれた茶褐色、錆粒子は皆無。端部は全て柔らかに摩耗しきって角がたたず石棒のようになる。
3)鎌倉時代中期作で恐らくは室町時代に磨り上げられた茎。
見るからにネットリとて潤いのある(あくまで見た目としてで、手触りはサラサラ)黒錆。刀身に近づくにつれ、スベスベになっていき、錆際付近では刀身そのものが黒くなっただけの雰囲気。
4)鎌倉時代後期作で恐らくは室町時代に磨り上げられた茎。
やはり錆色に潤いがあり光沢すら感じる黒々さで滑らか。全体が見事に黒く、その茎はまさに黒鉄といった感じ。
5)南北朝期の在銘生ぶ茎。
錆の触感は僅かにザラッと粒子を感じ、けれどネットリミッシリついて錆色は灰色がかったもの。
といった感じ。
一般的な錆に対するイメージからしますと、錆びた茎もザラザラとしているように思うかもしれません。ですが、そんな事は殆んどないです。古い時代の錆に覆われた茎は滑らかで優しい手触り。極端に言えば人肌(ちょっと年のいった固めの肌)のような雰囲気もあったりします。
触れたところで手に錆が移ることもなければ、剥がれたり取れたりもしない。
なお、念のためですが茎の表面が錆に覆われているだけで、茎の全てが錆びているわけではないです。錆の下には、綺麗な鉄がそのままの状態で残っています。
こうした良い錆でも色合いは種類があり、今まで見てきた感じですと鉄黒色、墨色、消し炭色、こげ茶、黒色など暗めの黒系統のもの。
大事にされなかった刀は露骨に茎が荒れています。
一度は錆刀になっていたり、放置され手入れが悪かった刀の茎は本当にグレてます。
錆具合にはムラがあり濃い箇所や薄い箇所もあり、赤茶系が交じっていたり。小さな塊状の錆が固まっていたり、肌荒れのように凹凸が激しくゴツゴツで、ブツブツとなっていたりします。(凹凸は錆の腐食で生じたもの)
荒れ具合は様々で表現が難しいですが、実物を見れば誰でも荒れてるなーと感じる物です。これは人間の顔つきと同じです。
良くない色合いは飴色、土色、赤茶色といった、明るめの赤系統のもの。
とはいえ……画像では茎の荒れた色は分かり難いです。
光を強めにあて正面から撮影すれば、もう黒々とした良い錆に見えてしまう。その他の荒れた状態もやっぱり確認しづらい。
茎にどれだけ情報があろうとも見方が悪ければ分からないです。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます