八十振目 鐔と鍔と2

 現代鐔師の中で名工と知られているのが、『成木一成』氏。

 岐阜県にある中津川市の恵那山(胞山)の麓に住み、号は胞山。ただし鐔の銘としては一成、一成造が入れられます。市の無形文化財保持者であり、無鑑査指定の名工。全国各地の砂鉄を用いた自家製鉄の鐔は独特の世界観で、現代作とは思えない程に古雅で味わいがある。成木氏の鐔は他とは別格にされ「成木鐔」と呼ばれるほどで、間違いなく後の世でこの時代を代表する鐔師とされるはず。

 値段は現代作ながら基本10万以上、高い物は30万以上にもなります。

 ですが……この成木氏の鐔にも既に偽物が登場し出回っているので注意。

 現代工で存命の方ですので、鑑定書は発行されない。だから真贋は分かり難い。共箱(製造者が署名や捺印した箱)があっても、その偽物もあるので鵜呑みにはできません。

 少なくとも見分けるには……鉄の色合いが薄い。銘も共箱の字体も妙に縮こまり勢いがなく稚拙。それぐらいしか思いつきません。


 ついでに言いますと――これは偽物という意味ではないのですが――「現代鐔 新作」と画像検索してみれば、いかに見た目での時代区別が難しいか分かるかと思います。もちろん制作者は真面目であっても、それを手に入れた人が真面目とは限りません。


 明治期には古作の模倣品が大量に製造され、それが古鐔(つまり室町や江戸時代)として売られています。

 これは幕府崩壊や廃刀令など様々な理由で職を失った鐔師は、生きるために必死で西洋向け輸出品を製作したからで、この関係で国内にも大量に存在しています。なお、こうした品は横浜港から輸出されたため、「浜物」と呼ばれます。

 明治期の細工物は『明治の超絶技巧』と言われるように、非常に手の込んだ名品が多いわけですが、時代の変遷を生き延びる為に必死で細工をした結果。そう思うと『明治の超絶技巧』なんて言って感心している場合ではないような気がします。

 なんにせよ、それで鐔の真贋がより一層難しくなったわけですが……。


 模造作は現代においても次々とつくられています。

 先程の成木鐔だけではなく、古作の模造も多い。単純な鉄鐔だけでなく、象嵌品なども多くつくられているようです。手の込んだ模造もあれば、下手すれば錆びさせただけという模造品もあります。

 錆びていれば古いという先入観があるため騙されやすい。もちろん上手な錆付けや、煮染めて黒味を持たせ名品感を出したりイロイロ。

 そうした素人には見分けの付かない現代鐔が時代鐔として売られている。

 これは人に言われた事ながら「何枚かの鐔を並べ比較し眺めねば良し悪しは分からない。店で一枚だけを眺めては全く分からない」「鉄鐔を勉強したければ一枚買う。何度も観たら、それと比較し良い鉄色の鐔があれば買う。これを繰り返し段階を踏むしかない」という事だそうな。


 鐔の説明で注意したいキーワード「鉄骨」。

 現代で鉄骨と言えば、建材に使用されるI型鋼材の印象が強いのですが、それとは違います。

 しかし、鐔の鉄骨という現象が何かは非常に分かりづらい。

 鐔の場合は江戸初期以前の鍛造(叩いて鍛えた)した鉄鐔によく出るものとされ、時代極めの一つとされています。

 表現としては「小さな粒状鉄骨、大きめの塊状鉄骨、線状の鉄骨、黒い瘤状となった鉄骨が重厚な輝きを放つ、黒味のある鉄骨が生じ」といった説明がされますが、実際に「鉄骨がコレです」といったものは分からない。

 とりあえず私の理解としては、「肌の下に存在を感じる骨のような、鉄の表面に微妙に生じた盛り上がりで、現象としては様々ある」という感じです。肌の下の骨とは、なめし革のような肌の下に骨がある感覚でして、滑らかで力強い盛り上がりが鉄骨……と思うのですが、実際はわかりません。 

 なぜこれが注意したいかと言いますと、とりあえず鉄の盛り上がりが鉄骨っぽいという状況のため、細工で鉄骨のような雰囲気を醸し出す事ができるからです。

 怪しい場所で売られる際には、盛んに「鉄骨があります」「鉄骨の雰囲気が感じられます」「鉄骨が煌めきます」などと、説明されます。

 しかし再度の事になりますが「鉄骨は江戸初期以前の古い鉄鐔によく出る」、一方で「江戸時代前の鉄鐔は現存数が非常に少ない」という事で、そうもウジャウジャあるはずがない。


 鐔の説明で注意したいキーワード2「音色良好」。

 まず古い鐔は三枚合わせとなっています。両面に良質な素材を配置し、中央に質の劣る素材を使用し節約されています。古赤坂や柳生に多いといいますが、その他でもあるようです。

 人目に触れる部分は美観の意味から見えないように処理され、外見から三枚合わせを確認する事は難しいです。中心櫃孔か、もしくは処理のし損ないがあると確認できます。三枚の合わせが均等に行われているものは時代が新しく、不均等なものは古いと聞きます。

 なんにせよ、外見では判別できないため指で弾き音で確認をします。三枚重ねは音が鈍く、一枚のものは音が高くなります。

 そして古い鐔で一枚だけでつくられた者は入念作、ということで売り向上として「音色良好」などとして使われるわけです。

 もちろん「音」ですから、ネットで購入する場合には確認出来ず、出品者の主観として「良好」と言われると反論もできない口上ではありますが。


 鐔の運搬と運送について。

 まず鐔を鐔袋、もしくはプチプチで軽く包みます。それから鐔箱に入れ、その上から輪ゴム等で固定し、梱包するようにして下さい。

 なぜなら鐔箱に直接入れますと、中心櫃孔に引っかける出っ張り(名前を失念)に引っかかっただけの状態です。これで手荒に扱いますと、その出っ張りが外れます。で、その出っ張りは小釘で固定されています。中でシェイクされると……後は言わずもがな。

 せっかくの鐔に傷がつくと泣けます。とりあえず数年ほど放置して、ようやく目立たない程度に錆が復活しましたが……泣けます。

 

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