七十九振目 鐔と鍔と
鐔でも鍔でも通じますが、一般的には鐔の字が使われます。
その歴史は古く平安時代には当然ながら既に存在し革や銅製。鉄は回収され再利用されたか、鉄は貴重なため使用されなかったか不明。古い鐔は殆ど残っていないです(むしろ皆無)。
現存品としては室町時代以降となり、一般的な販売品の時代区分としては室町期、桃山期、江戸期(初期、中期、後期)となっています。
値段は様々。名品であれば軽く百万は超え、そこそこ名品で三十万~五十万。
大雑把な感覚としては次の通り。
一万円以下:ほとんど観光地の土産品、現代の機械製作
五万円以下:錆が出たり傷がある
十万円以下:人気のないデザインや、意匠が簡素
十万円以上:人気のデザインや、意匠が凝ったもの、江戸期のもの
二十万円以上:古刀匠、古甲冑師、古赤坂、尾張など古いもの
しかし、この値段感覚は凄く適当でデザインによって高低します。たとえば龍の入ったもの、雲龍や雨龍のデザインなどは人気があるため値段も上がり錆びていても売れます。
その他にも象嵌の有無や状態、鍔の流派や種類によって値動きは全く違います。
図柄は本当に千差万別。
龍・虎・犬・鼠・猿・牛と十二支関係は全て、蟷螂・百足・蜻蛉・蟹・海老・海鼠・雀など動物、松・菖蒲・桔梗・桜・笹・大根・茄子など植物、斧・時計・籠・歯車などの道具類、山・海・空・雪・物語・文字・意匠などなど様々に存在。
さらに同じ題材でも表し方が異なってきます。
龍の身体そのものが鐔、鉄地の上に竜の姿を彫り込んだり、鐔を雲や砂に見立て合間から龍の姿が見えたり。技法についても、象嵌や高肉彫りや片切彫りであったりと人間の想像力を試すが如く。
狸も人気で月見狸の他に、分福茶釜をモチーフにした鐔も多い。表は普通の茶釜で裏に尻尾がポンッと掘られたもの、茶釜型鐔に耳があるもの、丸鐔の中に狸を彫り込んだもの、表裏でストーリーとなっているもの。なかなかに面白い。
で、この鐔も……偽物が多いです。
刀匠鐔、甲冑師鐔、明珍鐔、京透鐔、尾張鐔などなど、少し知ればこの辺りも偽物が非常に多いという事で、なかなか手が出せなくなる。
鐔など刀装具も刀剣と同様、「保存刀装具」「特別保存刀装具」などの鑑定があるため、ちゃんとした鐔が欲しければ鑑定書付きを購入した方が安全。ただし、そもそもの鑑定が?な部分もありますので……。
つまり日本刀は地金や刃文の状態から決め手があるのですが、鐔は鑑定の決め手となるものがあんまりないわけでして。同系統の鐔であれば、図柄が簡素で素朴なものが古い、精緻で手が込み趣向を凝らしたものが新しいとされていたり。
難しい所ではあります。
そんな感じで鐔の真贋、時代を見分けることは非常に難しいです。
見た目が素朴で古びた風合いで、錆びた朽ち込んだ雰囲気であっても現代物だったりします。
鉄鐔を土に埋め、しばらくして取り出し加工して自然な朽ち具合を出す。その他に薬品を用い表面を腐食させれば、いかにも時代を経た雰囲気を出す。
中心櫃孔(刀身を通す箇所)には密着性を高めるため銅が後付けされ、これを「責め金」と呼びます。古い鐔などは何度も刀身が変わるため、その度に責め金が調整された痕跡がある。時代を経て銅が鐔と一体化した雰囲気……が、しかし銅は細工がし易いため、古そうに見えても新しい場合もあります。
デザインや技法から多少は区別がつき、たとえば……太刀師鐔という平安時代から続く種類の鐔があります。
これで有名大名の家紋が幾つもあれば、どう考えても明治以降の作。なぜなら、一つの鐔に複数の家紋を入れるなど江戸期には考えにくい。現代風に言えば名字が「徳川島津伊達芦名赤松」となる感じですから。そうなると、これは幕藩体制が崩壊した後となるわけです。
デザインが簡素で素朴であったとしても……しかし盛んに写し物が行われるためデザインから古いとは言い切れない。
数があまりに膨大すぎて分類が難しい。鐔の研究者の記述によれば、時代鐔とされる中で本物は一割程度だそうです。
そんな事もあってか、鐔鑑定の時代区分は大雑把で、室町・江戸・現代程度になっているわけです。なんともはや……。
とはいえ鐔は小さな美術工芸品。縦横8cm程度の中にギュッと美観や美学の詰め込まれています。真贋や時代など細かい点(細かくないかもしれませんが)を気にせず図柄を楽しみたいです。
どうにも鐔の向きを忘れがちなので備忘録的にメモ。
・表に銘がある。
・表は帯刀した時に相手から見える側
・表の彫りや飾りが派手で、裏は地味
・表で中心櫃孔の刃側を上にすると、左に小柄櫃孔(楕円)、右に笄櫃孔(凸型)
・左右の孔が一つしか無い場合は、概ね小柄櫃孔(楕円)
・左右の孔が両方楕円の場合は、内部に出っ張りのある側が小柄櫃孔
・左右の孔が無いもしくは同形状の場合は、中心櫃孔に打痕や窪みのある側が表
・帯刀時には身体側が小柄櫃孔(楕円)、外側が笄櫃孔(凸型)
・抜刀し構えた場合は、自分から見て左に笄櫃孔(凸型)、右に小柄櫃孔(楕円)
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