七十八振目 ゆるく之定

 美濃鍛冶と言えば兼定・兼元・兼房あたりが有名。

 その中で兼定は直江志津系の兼則を元としており、直江志津は志津兼氏の弟子筋であり、志津兼氏は大和伝ながら正宗の弟子といった流れがあります。


 之定とは、この兼定の二代目になります(ただし娘婿という資料もある)。

 初期銘は「兼定」ですが、途中から「定」の字の「ウ冠の下を、之」と切るようになったので「之定のさだ」と呼ばれます。なお三代目はウ冠の下を疋と切るので「疋定ひきさだ」と呼ばれます。

 四代は芦名家に呼ばれ奥州会津に移住したものの芦名家は没落、五代は会津藩(蒲生家)に仕え以降は会津藩のお抱え工となって代々続き、十一代兼定が鍛えた刀を新撰組土方氏が使用(諸説あるが之定でない事は間違いない)となります。

 そんな之定の刀には肥後拵えを付ける事が一つのお約束。

 これは部下を三十六人斬り殺したサイコパス武将の之定が肥後拵え系であった影響のようで……しかしそうなると幕藩体制下で、大名の拵えを真似るとも思えないので、之定の肥後拵えは幕藩体制崩壊以後に発生した事かもしれません。


 この之定の作刀期間は文明4年(1472)~大永6年(1526)の54年間と意外に長い。

 之定と切るようになったのが明応9年(1500)頃からで、泉之守を受領したのが永正8年(1511)になりますので、二字銘之定は文亀元年(1501) ~永正7年(1510)の間という感じです。

 とはいえ……美濃の刀鍛冶は同銘工が存在し、之定についても同銘刀工が数人存在しています。出来映えに差がないため、事実上どれが誰と区別する事はできず同一とされています。しかし、受領名は流石に入れられないでしょうから、他の之定もせいぜい二字銘まででしょうか。

 泉之守を受領したのは之定と切るようになってからなので、偶に見かける和泉守兼定とあれば、それは間違いなく偽物と断定できます。なお、之定が和泉守を受領したのは伊勢神宮の内紛解決に尽力した功績があったからですが……別の資料には刀を提供した功績があったとあるので、内紛は武力鎮圧されたという事? 伊勢神宮の割には血なまぐさい。

 孫六兼元と義兄弟で、伊勢に滞在して村正(初代)と合作してます。法華経を自費出版する(まさかの同人誌製作)など宗教活動をしているので、なかなか活動的なイメージがあります。

 しかし字は銘も含め凄く下手。


 之定の刀は二尺少しと寸法が短いです。

 しかし、強い腰反りに鋒がやや伸び身幅も調整されており、手にしても不思議と短さを感じません。茎も片手持ち用に短くされ、取り回しがしやすいように配慮されています。金象嵌銘で「籠釣瓶」や「笹露」と入れられた作も見た事があり、どちらも水が留まらないの意味で斬れ味良さを誇ります。

 二尺五寸ほどの刀もありますが、これは陣太刀(儀礼用の刀)のようですが。

 それはともかく之定がなぜ短いかと言えば、所持するのは武将級のしかも上級武将(柴田勝家や明智光秀など)であり、戦場には出ても指揮を採る方が主のため長刀を必要としなかったからのようです。森長可は……槍ですから例外。

 しかし実戦刀である事は間違いなく、実物を見れば刃肉をつけず鎬を厚くし切断力を持たせつつ耐久性を持たせている事が分かります。

 刃肉が削いであるので現代の巻き藁切りには適しているかと。それと知らず初期銘之定で斬りまくったので、そこは断言できます。


 刃文は種々様々で芸達者。

 一例として作風を挙げると、全体として互の目丁子乱れで金線砂流しがかかる。焼出しは尖り刃の入った湾れ調の直刃で、そこから直ぐに激しい袋丁子の互の目乱れになり、鋒で乱れながら掃きかける。

 美濃物の特徴は地蔵帽子と言われますが、之定の場合はあまりそれを感じない。

 そして之定は美濃系の割りに鉄が冴えているものが存在します。よく村正との比較で兼定の方が地鉄は精錬され良質であるとされますが、そこは美濃系で地位と組織力のある兼定に対し、田舎鍛冶の村正では入手出来る鉄の質が違うので、そうした差があるのかなっと。


 之定のお値段。

 受領年紀入り脇差し特保で250万円、二字銘の刀特保で250万円、金象嵌銘の脇差し重要で400万円、二字銘の刀重要で400万円、受領年紀入り刀重要で1000万円(ただし、これは他にも高くなる要素ありましたが)。

 人気のわりには、そこまで高くないのはやはり実戦刀であって美術的な面の価値が評価されていないからです。しかし、出来も物も良いのは間違いない。

 なお、数打ち兼定の刀保存で50万円、三代兼定の刀特保で200万円、十一代兼定の刀特保で100万、同短刀特保で100万ぐらいでしょうか。基本的に初代・之定・三代・十一代が出るぐらいで、四代から十代は見かけた事がありません。

 しかし之定は昔から人気があるため、ご多分に洩れず偽物も非常に多いので注意が必要です。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます