七十四振目 ゆるーく孫六兼元

 孫六は孫が六人という意味になるので、縁起良し。そして「関の孫六兼元三本杉」と妙に耳に残るフレーズもあって有名なのですが、まず最初に言いたいことは「孫六兼元は関ではない」ということ。

 実際には赤坂(今の大垣)に居住しており、関に移り住んだのは後代の孫六になります。

 三本杉と言われる刃文も、孫六兼元その人としては不揃いで自然な形状。どちらかと言えば互の目の頭が崩れ、幾つか山が出来た状態です。あまり三本杉といった感じはないです。

 よくイメージされるような、規則正しくトンガトンガした鋭角な三角形をした連続刃文は後代のものです。


 在銘刀の孫六兼元は200万弱ぐらいが相場でしょうか。市場には時々出る頻度ですが、出ても短刀の方が多く刀は少ないような気がします。

 ちなみに双璧とされる之定は250万ぐらい。そうした意味からすると、評価的には之定の方が上。なんにせよ美濃系は時代も新しく全体的に美術価値が低いとされるため、備前系に比べ評価も値段も低いです。

 その他で孫六で言いますと、これはよく言われる事ですが孫六兼元は中級武士が使用したので実戦的な長寸が多く、之定は武将が使用したので指揮がしやすい短寸が多いといった傾向。

 現代でも孫六の刀名は受け継がれ、金子氏が二十七代兼元でした。

 その金子氏が亡くなられた頃に、ある刀匠は「有名な銘なので、どうせ誰かが継ぐでしょ」と言ってましたが……あれから誰が継いたとは聞いてない。

 どうなった。

 有名な銘だけに刀匠間の力関係とか、しがらみとか、名の重責などがあるのかなと勘ぐってしまいます。


 で、孫六兼元には何かと偽物が多い。

 有名な刀匠の宿命と言いますか、昔から多数の偽銘がつくられています。別にこれは昔だけの話ではなく現代でも……怪しい鑑定をする場所では、ちょっとでも刃文がそれっぽければ孫六兼元に鑑定したり、ちょっと怪しいサイトを覗けば妙に格安な孫六兼元が売られています。

 偽銘も多いですが、それと合わせ二代兼元と二代孫六兼元の勘違いを利用した詐欺紛いも昔はあったとか。

 初代兼元、二代兼元、三代兼元と続くのですが、この二代兼元が孫六兼元。ですから二代兼元と聞いて手に入れたら、二代孫六兼元(つまり三代兼元)だったという話もあったり。


 先日も「兼元を譲る」と個人コレクター(あまり付き合いはない人)から連絡があり、ほいほい行って怪しい兼元に遭遇。

 その兼元は――尖り互の目の不規則な刃文で、尖った先はやや丸い。鋒は地蔵でなく、尖り気味の小丸で返り浅く硬く止まる。地鉄は板目で鎬は柾目。

 といった感じで、見た感じは初代か二代の雰囲気。

 しかし、銘がいけない。

 どうにも兼の字に勢いがなく、銘が目釘孔の上にある(室町期の二字銘は目釘孔の右下)など、なんとなーく違和感がある。

 ただし、怪しいと確信したのは鑑定書を見てからなので偉そうな事は言えません。出て来た鑑定書は真新しい水色系のもの、「本当は保存が付いているがゴタゴタで無くした。手っ取り早く出してくれる鑑定書を貰ってきた」という事でして、その瞬間に偽物と判断しただけです。

 鑑定書がちょっと手元にない、合格通知は来たが鑑定書はまだ来てないetc……今は鑑定書がないけど本当はあるんですよ、というのは典型的なヤバイパターンですね。

 もしかしたら本物かも、顔見知り間で騙したりするはずがない、といった事を考えがちですが怪しいと思ったら手を引くべき。

 よく考えれば個人間の取引など、これまた典型的トラブルパターン。

 そんなわけで孫六とは縁なくお別れ。

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