七十三振目 日本刀を買う時2

 日本刀を買うならば。

 必ず実物を手にして確認します。たとえ信用出来る店の品であっても画像と実物は印象が違い、後になって返品という事も充分にあります。

 絶対に手に取ってから買って下さい。

 そうなると当然ながら足を運ばねばならない場所が――日本刀専門店。

 なんとなく敷居が高く思えますが、全くそんな事はない。商品が日本刀というだけで、後は普通のお店。

 ただ何と言いますか……なかには昭和テイストの店があるのも事実。

 昭和テイストと言いますと、迂闊に足を踏み入れると睨まれ愛想の欠片も無く、商品に触ろうものなら叱られ、何も買わずに出ると舌打ちされる……そんな時代もありましたよね(遠い目)。

 そこまで酷くはないにしろ、今でも愛想の悪い店は少数ながらあります。

 たとえば「客が来ても一瞥した後は新聞を読んだまま、質問されても顔も上げず生返事、しかしお得意さんが来ると揉み手しながら挨拶に行く」といった……どことは言えませんが……。

 大半は親切丁寧な対応をしてくれますので、変な店に当たっても次は大丈夫。


 来店前に連絡し希望等を伝えておくのもアリです。店側でそれに合わせ刀を用意してくれたり、在庫の有無を教えてくれますので無駄足を踏まずにすみます。

 そんな事をすると買わないといけなくなるのでは? でも買う検討で訪れる分にはさして問題なし。

 虎徹を買うと無理言って取り置きさせ気に入らないと買わなかった人や、何か欲しいからと何本か用意させながら欲しい刀がないと買わなかった人など。剛の者は幾らでもいますので。

 ただし!

 完全に買う気ゼロの冷やかしは×です。店側も買う気で来たのか、そうでないのかは直ぐ気付きます。偶に博物館代わりに来店し触るだけ触って帰る人もいるそうですが、店も客を見て対応を変えてきますので、直ぐに通用しなくなります。


 また、刀屋で「これは良い刀ですか?」や「重要になります?」と聞く人もいますが、これは意味がない。売り物を悪く言う店などなく、また言質を取られるような答えをする店もありません。

 しかし、気になった点はどんどん質問(常識の範囲で)すべきです。答えてくれない店には答えられない理由があるし、対応の悪い店は以後の対応も悪いと分かります。


 買うのであれば営業トークに惑わされないよう注意。

 どの店でも、商品である刀を褒めます。「鉄が練れて鍛えがいいです」や「刃文の出来が良いです」、「全体に出来がよくて、お勧めです」など、これぐらいは普通ですが……過度に刀を褒めたり、妙に押して売ろうとする店は注意です。 

 言い方は悪いですが相手は海千山千の商売人。

 タチの悪い店は買わせよう買わせようと言葉巧みに押してきます。「これを逃したら二度と出てこない」「他からも引き合いが来ている」、「買おうか迷ってる人が他にいる」、「こんな良い刀直ぐに売れてしまう」、などなど焦らせます。

 こうした押し強い店は要注意です。

 念頭に置いて欲しい事は、『刀は一振りだけでは無い』という事です。

 たとえば同じ銘の刀でも案外出回ってますし、同格の出来の刀も探せばいくらでもあります。買った後にもっと良い刀が出る事もよくありますので、必ずその時に買わねばならない事は全くない。


 なお、「迷っている時にお茶を出された場合」は気を付けましょう。

 ひと息ついて休憩して下さいといった善意のようですが……これが落とし穴。お茶を出されると、普通は直ぐに席を立てない。

 で、そこに次々と高額商品、同格の商品を次々並べられると「要警戒」。

 一振り何千万がずらずらと並べられ、気付けば机の上に合計数億もの刀が並んでいる。そうなると自分が迷っていた程度の金額が馬鹿馬鹿しく思え、ついつい買ってしまう事になるわけです。まさに飽和攻撃。

 これは昔から骨董店などで行われてきた古典的な手法(呼び名があったはずですが忘れてしまった)です。

 良い店の場合は最初か最後の頃、もしくは話がまとまってから、お茶が出ます。


 そんな感じに留意しつつ一度は店に行ってみましょう。

 繰り返しますが日本刀は実物と画像では印象が全く違います。必ず手にとって確認してから買いましょう。クーリングオフで返品可能と言っても現実には……ねえ?


 ついでに言えば良い店(私の判断基準として)は、客が買おうが買うまいが気にしないスタンスの店です。愛想が悪いという意味ではなく、迷った時には「よく考えてから買われた方がいいですよ」「頭の隅にでも置いといて下さい」「こういう刀もあるという事で、選択肢の一に」と言った感じです。

 なお、この店は売りに行った場合でも「これは良い刀なので、売らずに大事にした方がいい」と助言してもくれます。

 某ゲームで言うなら「これを売るなんてとんでもない」と、教えてくれる商人みたいなものですね。もし手放せばストーリー進行に支障をきたすので、買わない店の存在って本当は凄くありがたいわけですよ。

 でも現実では、このスタンスの店は一軒しかありませんけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る