六十八振目 INAKAで日本刀(雑談)

 田舎……感覚としては築60年程の日本家屋で付近に田畑があって山が迫る。コンビニは車でないと辿り着けないぐらい。それがINAKA……といった地域ですと、案外と日本刀が残されている事が多いです。

 現代は誰もがサムライジャパンですが、江戸時代の人口8%程度が武士だそうですから、残りの92%は……まあサムライの誇りを胸に抱くことは大事ですよね。なお、我が家は由緒正しいお百姓さんの家系ですが。

 それはさておき、田舎の大地主などは名字帯刀が許されていたそうですし、脇差しであれば武士以外も所持が許されていたようです。明治以降に成功した小金持ちが日本刀を買い漁ったりしています。

 さらに二度の世界大戦で出征した兵士の方々も軍刀を所持したため、そうした刀が以外と残っていたりするわけです。

 ただまあ、バブル期のみならず、戦後何度となく刀剣ブームがありましたので、刀剣商や骨董商が一軒ずつ回って刀探しをしてます。ちょっとした大きい家など目を付けられ、何度も刀を売ってくれと押しかけて来たそうです。

 そんな時代を経ているので、基本的に田舎の家に良い刀は残ってない。


 なお、そうした流しの骨董商の中には悪質なタイプもいますので要注意。つい最近も知人宅でありましたが、旅行から帰ってくると蔵にあった骨董品が根こそぎ持って行かれ、留守番の年寄りが一万円札三枚を嬉しげに握りしめていたそうです。気の毒と言うか、何と言うか……。


 それはさておき、基本的に良い刀はそうそう出てくるものではない、と改めて実感したのが、親の実家に呼ばれ田舎に行った時の話。

 そこに行くのは祖母の葬式以来、実に十数年ぶり。

 何か良いもの見えるかなと、うきうきと行ってみると……何故か、人が多い。近所の親戚やら遠縁連中まで集まり、急な葬式かと思ったぐらい。

 結論から言えば、各自の家にある刀を鑑定して欲しいという事でした。

 鑑定なんぞできたら、誰も苦労しない! と説明し何故こうなったか確認すれば、犯人はマイマザー。どうにも「うちの子、刀詳しいから鑑定して貰えば?」といった感じの軽いノリで話してくれた事が発端……。

 とはいえ、集まった人にも申し訳ないので(あとは、見たかったという欲もあって)改めて「鑑定はできない」と明言してから各家の刀を見せて貰いました。

 全部で九本あります。


1)四本

 よく分からない状態ながら、全て半ばで折った先側だけ。そんなものに価値なんてあるわけがないので「価値無し」と即決。

 話を聞くと――戦後まもなく、刀があると捕まるという話があったので折ったという事でした。

 こうした事は、よくある話ですが大抵は屋根裏に隠したとか、土蔵の奥に隠したとかなのですが、どうにもこの地域は皆して折ったらしい。

 中にはそれをナイフに仕立て直し漁や猟に使用しているそうですが、斬れ味は中々で重宝しているとか。なんと贅沢なナイフか。

2)三本

 どうも新々刀ぐらいで、しかし出来は明らかに粗雑。しかも錆が多いので、「研がねば売れないが研ぐお金の方が高くつく」と伝えてお終い。

 話を聞くと――戦後になって、都会から来た人が食糧の代金として置いていったのだとか。

 これも、よくある話です。ほぼ断言できますが、食べ物と交換に持って来るような刀に名刀はないです。

3)二本

 よく分からない。錆はないものの、肌全体がぼやけて研ぎが悪すぎる。茎をみさせて貰った感じは大磨上の無銘。ただし出来は悪いと断言できるもので、恐らくは末古刀の数打ちあたり。「古いけれど金銭的な価値は低い」と伝えてお終い。

 どうにも、孫娘辺りが欲しがって困っているとぼやいてますが……まあ何となく理由は想像できますね。曖昧に笑って何も言わずにおきました。

4)一本

 明らかに昭和刀、こちらは折られてない完全な状態。

 これは親の実家の刀で、海軍将校だった祖父の兄の遺品。確か少佐だったそうで、何故か恩賜の銀時計が母親経由で我が家にある。しかし戦時中に艦は沈み、遺骨すら帰って来られなかった。偶々実家にあった刀を曾祖父母に祖父母も大層大事にしていたもの。

 伯父いわく「他にも刀はあったが、これだけは売れなかった」で、今も大切に伝えられている……と思いきや違いました。

 つまり「他の刀と一緒に売りに行ったが、これだけ買って貰えなかった」ということ。でもって、しきりに「幾らになる、幾らになる」「高く売ってくれ」とのこと。うーん、何と言いますか祖母の葬式から付き合いがなかった理由を改めて認識ですね。

 ちなみに外装は太刀拵えに家紋が施された立派なもの、付属でアルミ製の式典用短刀もあったりしますが……まあ保管状態が悪いので価値はない。


 そんな感じで「日本刀=凄い&高い」といったイメージが先行していますが、基本的にはそういった日本刀は博物館や美術館、店頭にあるもので、市井に現存する品の9割9分は凄くもないし高くもない。

 改めてそんな事を感じた次第です。

 まあ、コレクターが秘蔵している場合もありますが……。


 遠縁に刀好きがいるので話をしてきましたが面白い。

 こそっと教えてくれた話では、その近所に人間国宝が打ってくれた刀を所持する人がいるのだとか。しかもそれは「古い錠前や釘を持って来たら引き受ける」と言われ、納屋の金具、蔵の錠、解体した神社の釘、古い鑢などなど、あちこち回って材料を集めて鍛刀された刀。「なんとか大鑑」に載っているとかで、あれかーあれかー羨ましいなー。

 そんな流れで良い刀をつくるにはどうするかで盛り上がり、鉄の話なんぞを。

 やはり地道に川で砂鉄を採取してと、ありきたりな意見を言ったところ大いに否定され、「今の川を見れば、どこも普通に廃棄物が捨てられている。山だって不法投棄がある。そこから出た鉄が混じれば、洋鉄を使うのと何が違う」との事で……うん、確かにその通りで考えさせられました。

 ついでに言えば、刀好きの前で鉄の話は禁句だなーと思うしだい。

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