六十七振目 日本刀の鑑賞は位置取りが命
まず、位置取りの前に油取り。
鑑賞する前には、塗布された油を完全に拭い去る必要があります。慣れてくると、どうにも油を取るのが面倒になってそのまま観てしまう時がありますが……それでは全く観えてきません。
油の種類にもよりますが、特に植物油系で粘度が高い丁子油ですとティッシュで拭いただけで取りきれません。ですから打ち粉(あまり使いたくはないですが)を使用するか、刀剣専用のクロスでシッカリと拭き取ります。
なお、刀剣クロスでせっせと拭く際は切っ先付近では要注意。しごくように拭いますと、グサッと刺さる場合があります。切っ先はかなり鋭く、軽く当たっただけが予想外に出血します……。
なんにせよ。
油がある状態では刃文はぼーっと見え、全体に白っぽくぼやーっとしています。当然ながら地肌はみえません。で、これを丁寧に拭き取った瞬間に明るく冴えて艶のある鉄、見事な肌目や地景地沸が鮮やかに現れます。もちろん刃文付近の働きや映りの見え具合も同様。
博物館などは丁寧に取り去っていますが……稀に、拭き取り残しが僅かにあったりします。過去には油滴が大量にある状態で展示していた博物館もあったりました。
そして鑑賞ですが。
光をどこに置いて鑑賞するかによって、全く見え方が違いまし、見えてくるものも異なります。そのため角度を変えつつ刀身に反射光を入れ、見やすい位置を探してやる必要があります。
さらに光量が強いと働きが見えづらくなるため位置どりが大事。
さらに刀ごとに見やすい見えにくい位置があります。
以下は一般的な天井蛍光灯での雰囲気。
1)鋒を光源に向ける。
刃文の全体や肌が見えやすく、映りも把握しやすい。しかし視界に光源が入るため、光が強い場合は見えづらい。太刀や刀などは鋒が疎かになりやすい。なにせ鋒は遠いですから……。
刀の見やすい位置を定めた後は、角度は変えないまま、手元から引くようにして元から先まで観ていきます。
刃文を観たい時は反射光そのものを見ず、その周辺を見ます。映りは光源に近い側が見やすく手元側が見えにくい、地沸は手元側が見やすく光源側が見えにくい感じです。
一般的には、この状態での鑑賞を進められ店舗でも同様にして観ます。一番の基本ですが、案外と細かい部分を見落としやすかったりもします。
2)光源を真上とする。
天井の光から、手元を照らすように観ます。この場合は反射光の中を見ると刃文の細かい部分や肌が観やすい。ただし鋒の刃文は角度的に観づらい。手に持った刀を揺らし角度を変えながら、元から先までじっくりと見ていきます。
3)光源を後方に置く。
刀を垂直に立て、それを見ます。この時も反射光の中を見ます。こうすると地肌や金筋などが案外と見やすい。こちらは身体も動かしつつ、元から先までを見ていきます。
刀の鑑賞には位置取りが大事です。光源が沢山あっても駄目ですので、良い店の場合は高い位置から斜めの光源を置いてくれています。こうしてくれますと、上記の1)2)3)と、如何様にも観る事ができますので。
さて博物館などに行きますと、刀の前でスクワットする人がいますね。あれは角度を変えて一生懸命に観ている状態です。ただまあ残念ながら……それをやっても観える内容に大差はないです、はい。
ついでに光の種類も。
電気のない時代であれば襖を少し開け、隣の部屋から差し込む灯火の光で見たそうです。今では白熱灯が良いとされています。多くの刀剣店では白熱灯を用意してくれ、この光で商品を観せてくれる事が多いです。
白熱灯が良いとされる理由は様々ですが、光が弱いからだと考えてます。光が強すぎると肌の働きが掻き消され消えてしまうので。
ですが……これは所詮、見方の問題。
LEDだろうと蛍光灯だろうと充分に見えますので、あまり気にしなくて良いかと思います。自宅で鑑賞する際は特別にライトを用意する必要もなく、天井の蛍光灯で充分です。
なお太陽光だけは注意します。
日の光を浴びた刀剣の肌は素晴らしく美しい。これは本当に鉄の中に赤青黄白緑銀金と微細な色点が無数に散りばめられ素晴らしいのですが……その光源が強すぎるため、肌目もなにも光につぶされてしまい全く確認できません。さらに長時間眺めれば当然目を痛めます。
でも一度は日の光で刀剣を眺めて欲しいです、これは普通の光とは全く違います。
光以外にも持ち方、身体の向き、部屋の光量、さらには本人の気分や見える段階によって見え方が異なります。何年も観ておきながら、ある日突然気付く事もあったりするわけです。そうした事が楽しく面白く、刀に飽きない理由でしょうか。
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