五十五振目 値段の異なる刀剣店、そこは高いか安いか

 日本刀の値段はあってなきが如し。

 現代で流通する品の大半は定価が存在しますが、日本刀には定価などありません。お値段は時価で市場価格となります。

 さらには美術品かつ工芸品であるため、一本毎に出来栄えが異なり状態が異なり、それを各店舗が勘案しつつ値段を設定する事になります。

 ですから、どの店が高いか安いかとは一概に言えません。

 良品は高く売られ、並品はお手頃で売られ……しかし同時に、並品を高く売る場合もあるわけで。さらに、そこに偽物や繕いや粗悪品が入り込むため値段というものは非常にややこしい。

 ネットをみますと店舗が「高い高い」と叩かれていたり、様々なケチや文句が悪意を持って書き込まれています。しかしそれは本当なのか。そもそも高いとは何なのか……。


1)品質からみた値段

 ネット上で高いと叩かれる店でも、本当に高いかどうかは刀を見ないと分からない。逆に安い店は、なぜ安いのかも考えないとダメかと。

 古三原という備後国の南北朝頃の流派で青江に似た出来の刀があります、これを特別保存だとして、A店130万円、B店100万円、C店90万円で売っている。

 これだけみるとA店はいかにも高い。

 しかし、A店の古三原は重要刀剣となって手放す際は買取で150万円、下取りであれば180万円といった値段。B店C店の古三原は特別保存止まり、手放す際には買取で50万円40万円、下取りで70万円60万円にしかなりません。

 こうなると、どちらがお得で安い刀であったか。

 ただし高いからと必ずしも重要になるわけでもないのですが……。


2)状態からみた値段

 ハバキや研ぎまで丁寧に仕立直し、少しでも良くして送りだそうとする店もあれば、仕入れた状態の小錆びや疵のあるまま売ろうとする店もあります。

 当然ながら、手入れをすれば値段に反映されます。

 買った後に研ぎ直しとなれば、10万円20万円の費用は軽く飛んでいきますし、時間もかかるし職人も万全に仕上げてくるとは限らない。

 こうなると、少し高くとも手入れがされていた方がお得という場合もある。


3)同じ刀に対する値段。

 何故か店舗間を循環する刀があります。D店で売れた刀が理由あって手放され、E店で売られたのかもしれません。またはD店とE店で品を融通しあってトレードしているのかもしれません。

 こういった刀があると、とても解りやすい。

 D店で300万円であったものがE店で500万円で売られていれば、当然ながらE店は高いとしか考えられないです。ただし、D→Eの時点で鑑定書など条件が変化していれば別ですが。


4)大特価、大幅値引きの値段

 G店で250万円の刀がありました。半年ほどして行くと300万円という値段に赤線が引かれ、「大特価250万円!」の値段になっていた事もあります。

 H店では320万円で出ていた刀が、しばらくして250万円になっていたり……。

 いかにも大セール開催中とある店でも本当に安いかは分かりません。

 そもそもセールが出来るという時点で、普段の価格は何なのか……。


5)価格応談

 店の商品の大半を価格応談としている店、又は並品やB級品のみ値段を出し重要刀剣類のみ価格を非表示としている店があります。

 念のためですが、価格応談は相談して安くなるものではありません。単に値段を明示していないだけです。で、店員に問い合わせるわけですが……そこで言われる値段とは本当に正しいのか。

・言われた値段が相場より高いと指摘すれば、相場の値段にしてくる。

・値段の問い合わせに対し、客の懐具合を探りつつ値段を答えてくる。

・複数で問い合わせると、それぞれ値段が違う。

 相場を知らねば結果的に高い買い物になる可能性を含むのが価格応談です。値段を明確に提示していない点で、そこに何らかの思惑があると考えねばなりません。

 ただし看板刀などは、一応は商品として出しつつも売る気がないので「価格応談」や「参考展示」などと表示している事もありますが。


 刀剣店も様々です。

 一本ずつ吟味し高品質を売る店、薄利多売で次々と品を出す店、安いけれど品が悪い店……良品ながら明らかに高い店、怪しい品ばかりの店。

 しかし、どの店が良いかは人それぞれ。

 ある人には良い店でも、ある人には悪い店であったり。またはその逆もある。

 自分に合った店を見つける事も、また刀の楽しみかもしれません。なんにせよ、相場観もなしに刀を見ずして買う事は非常に恐い。

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