五十四振目 重要刀剣になるには3
重要刀剣になるかならないか……そんな目で見るようになると、日本刀を純粋に楽しむ事はできなくなります。でもやっぱり気になるところ。
少なくとも経験上は、何の欲もなく気に入って買った品が合格し、これぞと思って買った品に限って転けてしまう感じです。ビギナーズラックというのは悪い意味でなく、そうした意味での戒めかも。
それはさておき。
まず無鑑(鑑定されてない)の刀剣や保存には手を出さず、特別保存を買いましょう。重要刀剣の申請も60回を越えた現状において、無鑑や保存で存在する日本刀はそうである理由があると思うべきです。
ただし正真の名品に限って鑑定に出されてなかったりする現実もある(前にも書いたかもしれませんが)。昔気質の愛好家は、あんまり鑑定に出さない。良い品は良いと自分で把握しているので、鑑定の必要を感じてないからです。
で、こうした愛刀家が亡くなると無鑑定状態でポロッと出てくる。以前も行光短刀が無鑑で出たかと思うと、これが瞬く間に特重まで上り詰めてます。そういう事も昔は年に一度ぐらいあったようですが、最近は数年に一度ぐらいでしょうか。
なお、そうした名品は刀剣商が伝手を駆使して所在を把握してます。
所有者が亡くなると同時に駆け付け、遺族と交渉し買い受け別の好事家(お得意様の金持ち)に売ってしまう。だから表に出てくる事はありえず、ましてネットオークションに出る事は99.99%ありえない。
話は逸れに逸れましたが、重要を狙うのであれば保存か特別保存を買う事です。
しかし、上位著名作で未だに特別保存である場合は怪しむべき。そこまで鑑定したのであれば、誰だって重要刀剣に申請します。それが特別保存のままですから何か不合格になる理由があるということです。もちろん全てが全てではないですが。
そんな時は特別保存の合格年を見ます。
前年の重要申請に間に合わない月で特別保存に合格してるなら、重要刀剣に未申請と分かります。ですが、それ以外であればきっと一度ぐらいは誰かが挑戦していると疑うべき。
特別保存合格から重要にトライ、不合格になって気落ちして手放すという流れを考えると特別保存合格から五年以内ぐらいが一番怪しかったり……。
まあ、その辺りは何とも言えませんが。
何にせよ刀自体をよく観ねばいけません。
あとは狙い方ですね。
某支部の偉い人に聞くと、重要刀剣の審査は合格物が偏らぬように調整をしているのだとか。つまり申請物件が備前10、美濃8、大和2といった感じで数の差があると、数の多いところは審査を厳しく、数の少ないところは審査を甘くし極端にならぬよう調整しているとのこと。
確かに例年の合格歴を見ていると、そうした傾向もなんとなく。古刀であれば備前が最大数なのですから、普通であれば備前ばかりが合格するはずですから……。
なんにせよ競合作が多ければ当然ながら競争も激しいという事です。
うーんと悩んでしまう微妙刀剣は、何度かトライし運良く競合作がない時に合格できる場合がある。重要刀剣の申請で三回目で合格した、二回目で合格したと言われるのはこうした事が影響。
とはいえ、それは合格水準のギリギリの微妙なラインにある刀剣の事であって、合格水準に到達していない刀剣をいくら申請しようが合格しない。
水準に満たないのか、刃文が標準と違うのか、銘違いの金粉銘・象嵌銘・朱銘、繕い刃や再刃などなど絶対にNOで合格しない刀剣があるわけです。
何故駄目かどうしてだめか。その見極めができないと手間とお金ばかりかかる。
なお、刃文形態が標準と差異があるという疑義程度であれば、それを否定できる資料(たとえば在銘特重や重要文化財で同様の刃文があるなど)を添付するとか、刀剣研究家のお墨付きを貰うとか……やりようはあると言えばあるのですが。
合格しそうな刀剣を探すなら、手っ取り早いのは目利きに聞く事。
で、つまりそれはお店の人。
普通の人とは比較にならない何百何千という刀剣を観て、かなりの目利き。もちろん、重要刀剣の合格不合格はお店の人でも読めない部分があるのですが……。
でも試してみる価値があるかないか、それぐらいはすぐ分かる。
しかし、普通に聞いても「さあどうでしょうか」「何とも言えませんね」ぐらいの雰囲気。100%駄目なものぐらいは「これはダメですね」と言ってくれたりしますが、基本的に言質を取られないよう注意してます。
何せ刀剣愛好者は……めんどい人が多いので。下手な事を言えば凄いクレームとなるわけですよ……。
とはいえ、「上が狙えそうな、夢がある、展望がある、楽しみな、期待のできる、チャレンジしたくなる」といった言葉で、ふわっとしたニュアンスで伝えてくれる店もあります。でも……そうした言葉を上手く利用している店もあるので要注意ですが。
ですが店でも重要申請して販売するので、みすみす良品を逃したりしません。
では、どういった店であれば重要刀剣になりそうな刀を売っているのか……それは品の回転が速い店。それから自店で毎月紹介冊子を発行している店です。
とくに毎月冊子を発行している店の場合、とにかくネタが必要です。これ重要になりそう……と思いつつ、しかし冊子に掲載するネタに使わざるを得ない。そうなると上記のような、ふわっとしたニュアンスで掲載しているわけです。
ただまあ……お得意さんに声をかけ売約確定で掲載している場合もありますし、お値段も重要前提だったりしますが。
ただし、今は重要や特重に出さない方が良いかもしれません。
理由は最近の合格発表を見て下さい。見れば何となく分かるかと。
昔は刀剣商が大量申請した時は協会も苦言を呈し、各店舗に申請を控えるよう要請したそうですが……今回の場合は協会も言うに言えないでしょうがね。
ですが、この件を各店舗でそれとなく聞けば、いろいろと不平不満や不信感が出だしている。少なくとも身近な愛好家の中でも同様。
まあ中には、お得意さんですと嬉しげに言う店もいますけどね。
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