四十五振目 冬は日本刀に厳しい

 冬という季節は日本刀にとって特に厳しいです。

 寒いため刀身は冷え冷え。手入れなり鑑賞するなり、布越しに持つと温度差で湿ってしまう。ただし、それは問題ない。

 最大の問題は――抜けなくなる!

 冬場は日本刀が抜けない可能性が非常に、非常に高いです。

 理由は寒さと乾燥によって木が収縮し、ガッチリ挟み込んでしまって全くビクともしなくなります。最悪です。もう一体化したぐらいに動きません。


 刀剣店では普通に抜けて何の問題もなかったものが、店を出て外を歩き新幹線に乗り電車を乗り換え、また少し外を歩き自宅到着。さあ、観るぞとなると一本の棒になったぐらいに抜けなくなります。

 こうした事象は冬場に発生する。夏場などは全く起きません。

 また自宅で保管している場合でも、冬場はやはり抜けが悪く固い傾向です。

 これを無理に抜こうとすると鞘を壊したり刀身を痛めますので止めましょう。


■鞘が抜けない

 もうこうなったらどうにもなりません。本当に待つしかありません。

 以前に知り合いが少しの隙間(鞘と柄の間)にマイナスドライバーを突っ込み、こじ開けたそうです。その時の話を聞くと……最初は全く動かず少し動きギーッギーッと軋み音がして、ついにはバキッと音がして鞘が壊れた。落ちた刀身の切っ先が床に刺さり変な角度で傾き、先が痛んで……。

 この方も購入した刀剣を冬場に運搬して、家に帰った直後の事。ウーン、最悪。


■茎が抜けない

 これは私も何度か経験があります。

 手に持って手首を叩くのですが、刀身がビィンッと鳴るだけで全く出て来ません。こんな時は、二日三日寝かせて置いておくと木が馴染んで抜けます。

 ただし理由あって早く抜きたい時は、『当て木』というものを使用します。この形状は数字の『7』のような形をしたものです。

 『7』の書き出し部分を柄の端に引っかけます。下に伸びた部分は柄に沿いますので、これを柄と一緒に握ります。そして角の部分を木槌などで叩く。

 そうしますと振動によって少しずつ抜け出てきます。軽く叩きすぎては出て来ませんし、強くガンガン叩いては駄目です。柄は二つを貼り合わせた形状のため片側を強く叩けば、最悪割れます。リズミカルに強からず弱からず叩くのがコツ。

 ただし!

 抜けた後は、今度は収まらないという問題があります。しっかり精巧につくられた古い柄ほど入っていかない。あまりにも精緻に寸法を合わせているだけに、逆に災いしている……。

 最近、これが起きまして当て木を使用し抜いたのですが、収めようとすると1cmぐらい茎が収まらない状態でした。翌日になると何とか収まりましたが、それでも目釘が刺さらない程度にはズレてます。

 なお、概ね二日程度で抜き差しに問題なくなる事が多いです。


 私が居合いをやっていた時は冬場に少し抜けが悪かったような……でも、けっこう鯉口が緩んでいたのでさして気にしてませんでしたが。

 昔の侍とかどうしたのでしょうかね。

 たとえば腰に刀を差し旅をして盗賊に襲われ抜刀しようとすると「ぬ、抜けない……」なんて事があったのでしょうか? 

 小説などでは冬場でもあっさり刀を抜いておりますが、実際には鯉口が締まって抜けないという事もあったはず。

 それとも武家の用心で鯉口は若干緩めていたのか?

 ちょっと疑問。

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