四十四振目 新藤五国光も分からない

 相州鎌倉鍛冶の創始者にして初祖の『新藤五国光』(以下、国光)。

 こちらも何かと分からなかったり。

 

 まず鎌倉鍛冶初祖とされていますが、それ以前にも沼田藤源次など鎌倉在住の刀鍛冶は存在しています。鎌倉幕府に招聘された国綱、助真、国宗、その同行者である鍛冶も鎌倉で作刀をしています。

 けれどそれは相州伝としてではなく、粟田口(国綱)、一文字(助真)、長船(国宗)など、それぞれの作風。

 そうした鎌倉に集まった流派が一つとなり相州伝として華開かせた(やや粟田口色が強いものの)のが国光。なおかつ『鎌倉在住』と『製作年紀』の両方を明記したので創始者や初祖と言われているわけです。

 しかしながら、国光という人物がどこからどういった素性で登場したかが分かっていません。


 国光の親もしくは師匠については諸説あり。

 先にあげた国綱、助真、国宗の三人が主としてあげられます。伝書では、大半は国宗を師匠として国綱・助真を一例ずつ。親としては国綱のみがあげられています。また、異説として国安、助真、国広、則国などの子とするものや、吉光、長光を師とするものもある。

 そんな謎の経歴ながら、国光自身に目を向けると幾つか分かる事も。

1.作風は粟田口をベースとしているため、国綱と関わりがある。

2.同地域に国宗系鍛冶が存在するが、弟子に『宗』の字を名乗らせている。

 以上を伝書と併せれば、国綱を親として国宗を師とする事がやっぱり妥当なのでしょうか。

 名前も新しい藤という意味であり、藤原を名乗った粟田口(国綱も藤六左近将監)系統における五男として新藤(進藤)五国光と名乗ったと言われる点とも合う。


 国綱の子という説についてですが、国綱と国光との活躍年には三十年以上の間が空きます。

 このため、国綱の老後(八十八歳)の子供とする説、「国綱-国綱(二代)-国光」とする説、「国綱-国光-新藤五国光」とする説が存在しています。しかし八十八で子供が作れる……のでしょうか。いや無理とは言いませんが無理とは。

 新藤五国光の前に、もう一人国光という人物がいて両者を繋ぐといった説の方が妥当のような気がします。

 実際問題、国光という銘についても大振りなものから小振りなものまであります。また字体の変化もあって初代・二代に分けられていますので、もっと複数代存在しても不思議ではない。

 

 なお、国光は三人の子がいて、長男を国泰、次男を国広、三男を国重とし、それぞれが後に国光を名乗ったとも言われてます……がしかし、系統図に「進藤太郎、進藤又四郎、国光(弟子)」と記されたものもある。

 また別の資料では、子を新藤太郎国重としているものもあって、国重が長男なのかも? 国重を長谷部国重とする説もあるので、ますます謎。

 国広も新藤五次郎や、文四郎国広といった名があるため、次男か四男かよく分からない。上記の名だけからすると、「進藤太郎=国重、進藤又四郎=国広」なのでしょうか。

 しかし「国光(弟子)」の存在もいるので、いっそ国泰が子ではなく弟子でもいいような……。なお、行光と大進坊祐慶も国光の子とする説もある。

 ますます分からず、こんがらがってしまった。

 いつか研究が進みはっきりすると良いのですが。


 なんにせよ国光が相州伝の創始者である事は間違いなく、弟子の正宗・行光・則重へと作風が受け継がれ、発展され相州伝として確立されています。

 そして、宗の字を使う正宗・貞宗。広の字を使う国広・広光・秋広など多数の名工を生み出し、さらには正宗への私淑(勝手に師匠と仰ぐ行為)といった形で国光の始めた作風は全国に広まっており、現代に至るまで影響は残っている。

 しかし、皮肉にも相州伝があまりにも難しい作刀であったため、次第に衰退してしまい伝法が失伝。室町時代以降の相州伝というものは、本来の相州伝ではないといった事は言わぬが花ですね。


 さすがに国光は正宗と違って刀が分からないという事はない。

 万人が分かる上品な美しさと出来を持っています。一度観て理解してしまえば、もう次から国光を見誤ることはないです。

 吉光と国光の肌合いは他とまるで違っており、肌合いが抜群に良い。粟田口系は地沸がもう少し強くはっきり現れ強いぐらいながら、両者はそれよりも静謐な感じで地沸の状態は非常に微細。肌立つ作品もあるものの、殆どの肌は良く詰んでいる。やや吉光の方が肌が立ち気味で大模様が少し現れる。

 国光は帽子に翁の髭と呼ばれる金筋が存在する場合が多いですし、刃の中に金筋がよく現れる。なお吉光にも金筋は多少は現れるものの、そこまでではない。

 両者が師弟(吉光-国光)という説もありますが、それもなんとなく信じられそうな感じ。

 ただ糸直刃や細直刃が多いので……研ぎ減ると刃が消えている場合もあるのですよね、はい。

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