四十三振目 金象嵌銘は豪華なれど

 日本刀における象嵌は主に茎へと施され、「極め銘、裁断銘、所持銘、号銘」など種類があり素材は金か銀。今回は鑑定結果で刀工の名を入れた極め銘について。


 重要文化財などの名品には金象嵌銘が多々ありますが、こうした品は本阿弥家が無銘極めの金象嵌銘を施入したものです。当然ながら、本阿弥家以外が行った金象嵌銘も存在するため、金象嵌銘全てが名品ではありません。

 金象嵌銘は在銘でなく無銘です。

 金象嵌銘は在銘でなく無銘です。

 大事な事なので二度、という事です。

 あくまでも無銘刀に後銘を施しているわけです。これが象嵌でなく単なる後銘であれば誰だって怪しみ警戒するでしょうが……金象嵌銘というだけで警戒が弛み、さも在銘の如くありがたがってしまう奇妙さ……。


 というわけで金象嵌銘には偽物が多いです。

 なにせ無銘刀に象嵌するだけで、ころーっと騙され買ってくれる(しかも高く!)わけですから。誰がどう見ても分かる偽物から、精巧な偽物まで幅広く存在。

 相州(特に正宗は頻出し国光、行光、則重、広光etc)、来系(来国俊、来国光、来国長etc)、備前(長光、景光、兼光、基光etc)、美濃(兼定、兼元)など著名なほど偽物が多いように見られます。もちろん、その他の銘でも沢山あるわけですが。

 昔からそうやって偽物があるため、今でも「金象嵌銘」と検索すれば保存すらつかず一蹴されるような品が今もネット上にごーろごろ。偽銘刀の駄目な刀勉強には丁度良いですが、困った事に「金象嵌で○○と銘された刀」を売っている事は嘘ではないのです。それは銘が正しいかどうかは別次元なのですから……。

 なんにせよ金象嵌銘というだけで惑わされぬ注意が必要(もちろん朱銘も同様)です。


 金象嵌銘が本物かどうか、正しいかどうかは日刀保の鑑定書があれば安心です。でもまあ最近は鑑定書の偽物すら出回っているので……いやはや。

 ぱっと見た瞬間に金象嵌銘だけが妙に浮き上がって見えるものはおかしい。金象嵌は目立つものながら普通は茎の中で全体と一体感をもって調和しており、金の色合いも落ち着いた感じで品が良い。間違っても金がギラギラしてない。

 一番は刀身を見る事ながら、金象嵌銘を確認して以下のような点があれば注意。

 ・平象嵌でなく表面がこんもり丸味を帯びている(以外にこの手の偽物が多い)

 ・字体が下手すぎる(細すぎる、頼りない、流暢さがない、稚拙など)

 ・字体があまりにも一画ずつ途切れている(裁断銘はまた別)

 ・象嵌表面に鑢跡がない、または茎の鑢目と方向が異なる

 ・象嵌表面が妙に凹凸している

 本阿弥家が行った金象嵌銘(実際には、埋忠なり吉岡などの金工が行ったでしょうが)と、別の者が行ったものでは、明らかに技量に差があり出来栄えも違います。本阿弥家でも字体が異なる場合は稀にありますが、それはあくまでも稀で殆どは字からして上手。


 本阿弥家で金象嵌を入れるパターンとして。

 パターン1:差表側に「銘」、差裏側に「本阿(花押)」

 パターン2:差表側に「銘」、その下に「本阿(花押)」

 パターン3:差表側に「銘」

 などがあります。

 花押がない場合でも書風や、施入の上手さ丁寧さから本阿弥の○○とまで判別されるので、象嵌技量の差というものが良く分かるかと。

 本阿弥9代から13代の金象嵌極め銘となれば、かなり稀少。特重や重要、重文になった金象嵌銘はこの辺りが多い。在銘と同価値とも言われるものの、そこまでではなく準在銘ぐらい。しかし光徳の金象嵌であればほぼ在銘扱いで珍重がられる。

 だからこそ、それを狙った偽物も増大していくわけですが……。


 なお刀装具の金象嵌についても少し。

 こちらは平象嵌の他に表面より高くして嵌め込んだ高肉象嵌、金箔などを細格子に嵌める布目象嵌など種類があります。もちろん平象嵌もありまして、金線での象嵌を名人が行った場合は一本の線で施入され剥離し難い。一方で名人でない者が行うと技量がないため、途中で途切らせ細工をしてしまうため剥離しやすい。

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