四十六振目 白鞘刀剣など手入れ時の扱い

 白鞘から抜いて鑑賞して戻すまでの流れです(前に書いてたかな?)。なお、これは祖父から教わって自然と覚えた内容のため、日刀保のマナー講座などとは異なるかもしれません。


■白鞘から抜く

 刃を上に切先を前にした状態で、左手にて鞘の中程を下から支えるように持つ。右手は柄を横から持ち、右親指を鞘の上に置きゆっくり押し鯉口を外します。

 鯉口とは鞘の入口を指します。ここにハバキが押し込まれ摩擦によって固定されているため、まず最初の段階としてハバキを軽く引き抜く行為を「鯉口を外す」と言います。念の為。

 そのまま棟を鞘の中で滑らせ、ゆっくりと抜いていきます。

 この時の感覚は日本刀や鞘によって異なりすぅーっ、ぬのののっ、ころころころ、かたかたかた。様々ですが、良い品(つまり上質な白鞘を用意されるような刀身)ほど滑らかな感覚。

 なお、カタカタする場合は修繕した方が良いかも。なお、収めた状態でカタカタする場合は刀身が鞘当たりしている証拠なので修繕が必要です。


 当然ながら両手を動かした長さしか抜けません。長刀であれば鞘を持つ位置など、よく考え抜き始めねば途中で苦労します。普通の体格であれば、二尺三寸までは鞘の中程を持って楽に抜け、二尺六寸を越えた辺りから持つ位置を考えねば抜きづらくなります。


 鋒が鞘から出る最後にスッと引いて完全に抜きます。

 しかし慣れないうちは、抜く寸前に少し止めます。なぜならば刀身は鞘に載った状態のため、抜けた瞬間に鋒が落ち鞘が上がってしまう事が多いためです。そのため注意しながら最後を抜かねば、白鞘を痛めたりします。


 抜き終わったら必ず鞘を安全な場所に置きます。鑑賞中に足が痺れ座り直した拍子に鞘を踏み潰した……という、すごーく最悪な人を見た事がありますので注意です。


■茎を抜く

 刀身を目の前に立て、それから刃を自分の右側に向けます。目釘は太い側と細い側があり、この状態にすると細い側が手前に来ます。

 この向きもセオリーがあって、刀は右手にもって左に振り下ろして斬る。つまり刃は左をむくため、刃を右に向ける事で刀を使いませんといの意思表示……らしいですが、これが本当かどうかは知りません。

 目釘を外す際には、目釘抜きを使用します。最近は金色の小槌が一般的で、その槌の部分を押し付けながら外し、小槌だからと叩いたりしないようにします。

 なんにせよ、力を入れすぎると目釘が飛び出し見苦しいので注意です。


 目釘が抜けない場合。

 小槌の柄の細い部分で押すのですが……押した拍子に外れ、白鞘を傷つける事があります。古い白鞘などは、そうして出来た傷が多数残っていますが、これは見苦しい。そのため、細い部分で押す場合は目釘穴の下に指を添え小槌を安定させつつ、ゆっくり力を入れ押します。


 それでも目釘が抜けない場合。

 金色の小槌の頭の部分がネジ式になっており、これを外すと小さなピンになります。床に置いた柄にピンをあてがってやり、小槌でトンッと叩けば外れます。


 抜いた目釘は、手入れ道具の箱に入れる。もしくは、外した柄に挿すなどします。目釘は意外に紛失しやすいです。


■柄を外す

 柄の下端を片手で持って刀身をやや斜めに立て、その手首付近を反対の手で叩きます。こうする事で衝撃によって茎はズレ抜けてきます。少し浮き出た時点で茎やハバキなどを持って外します。

 ハバキを何度もカチャカチャ鳴らすと、刀身に傷が残るので注意。また、ハバキを持つ際に腹側を持つと指紋が残り良くない(銅ハバキなどは、よく指紋跡が変色し残っている)。ハバキの刃側と峰側の狭い部分を親指人差し指で持ち持ち上げ、残りの指で茎を持ちます。

 抜けやすい刀もあれば、抜けにくい刀もあります。もちろん冬場は抜けにくいため、腕が痛くなるまで手首を叩く場合もあったり。


■ハバキを外す

 茎を持って反対の手でズラして外すのですが、もちろん柄を外す際と同様にハバキの腹側を持たないようにします。

 しかし、古刀の大磨上の刀など古い時代のハバキを外す際に非常に苦労する場合があります。特に古い時代の二重ハバキ(ハバキが二つに分割できるタイプ)が外しにくい!

 大磨上の場合など、その重ねは「茎>刀身」となっており、当然ハバキは一番厚い部分に合わせ制作されますので、刀身の間に隙間が生じます。しかし昔のハバキ師は出来るだけ隙間を出さぬようギリッギリを狙ってハバキを作ってます。

 しかも二重ハバキですと、上貝(二重ハバキの一段目)を下貝(二重ハバキの二段目)で締め付けるようにギュッとなっているものもあり……。

 何も知らず無理に外そうとすれば、茎をガリガリ削り黒錆びの下からピカピカの鉄が顔を覗かせてしまう。しかも削った錆がハバキの端に残っており、そのまま再度装着して放置すると刀身付近に一直線の錆跡が……これは、もう最悪です。

 ハバキがあまりにも外れない場合は無理に外さない方が良いかと。


■刀身の油

 刀身に油気が少しでもあると、地鉄の具合が見えません。

 完全に除去する必要があり、普通は打ち粉(時代劇でポンポンやっているもの)を付着させ拭い紙で取り去ります……が、しかしこれは良くない。

 打ち粉は刀剣研磨で生じた目の細い粉末です。つまり砥石です。これで拭いをかけると表面に微細な傷を生じさせます。もちろん目に見えるような傷ではありませんが、長い年月に何度も繰り返すと研ぎを曇らせ刀身にも影響を与えます。

 また拭い紙も和紙が使用されており、これには太い繊維が含まれるため、その太く固い繊維を最上研磨の品などには良くないと使用しない人もいます。


 そんなわけで、まずはティッシュ(今はスコ〇ティのカシミ〇ティッシュなど、柔らかく紙100%で保湿剤の入ってないもの)で拭います。

 ティッシュなんて……と思う人もいるでしょうが、拭い紙に使われる懐紙とて、昔はティッシュと同じ扱いのものです。

 それはともかく、ティッシュである程度油を取った後に刀剣専用クロスなどを使用します。刀剣専用クロスは店で売っている場合もあれば、刀剣を購入した際に付属で渡される場合もあります。

 これらで拭えば完全に油が除去できます。

 鑑賞した後は油を塗りますが、多すぎると液だれの原因となります。塗った後に、最初に使用したティッシュで一度拭っておくと丁度良いです。 


■白鞘に収める

 基本的には抜く場合の逆の動作となりますが、一番注意すべき点は、鋒を入れる瞬間です。

 右手を思いきり後ろに引き脇を締め、出来るだけ身体の前で鋒を鯉口に入れます。そうでなければ、特に長い刀などは狙いが定まらずふらふら。鯉口辺りを突いて白鞘を傷つけてしまいます。

 鋒が入れば後は棟を滑らせ入れていけば基本的にスムーズに入っていく……ただし、腰反りが強いなど刀身形状などによっては鋒で鞘を削ってしまう場合がありますのでゆっくりと入れます。

 削った場合は感触で分かりますので一度刀身を抜き、削れた木片を取り去っておきましょう。刀身に付着していない場合は、鞘を逆さにして軽く振るか、トントンと膝や床などに鯉口を軽く打ちつければ出て来ます。

 とにかく、できるだけゆっくり優しく収めてやります。

 最後の辺りはそっと送り出すぐらいで、良い白鞘の場合は吸い込まれるようにスーッ、トンッと収まります。

 ハバキが軽く収まった所で、ぐっと軽く収めてやります。なお、鞘と柄が触れ合うまで収める必要はありません。大抵は数ミリ程度の開きが生じるものです。

 間違っても、ばっちーんと勢いよく鞘と柄を激突させぬよう注意します。これをやりますと最悪、鞘が割れますので。 

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