四十一振目 鑑定書から分かること

 日本美術刀剣保存協会の発効する鑑定書から分かる事について。

 一番は日本刀そのものを見る事が大切ですが、折角鑑定書があるのですから、そこから得られる情報も有効活用したいところです。

 しかし鑑定書に頼り切っては駄目な事は間違いない。なぜならば日刀保の鑑定も時代によって甘い時もあれば厳しいと時もあります。方針が異なる時もあって、たとえば再刃でも以前は条件付きで保存や特保を出していたのが、今は保存すら出さないとか……ありますので。

 それはさておき、無銘に対する鑑定書から分かる情報など。


 同じ無銘であっても、その種類は二つあります。たとえば一文字を例としてみますと、1.無銘(一文字)、2.無銘 伝(一文字)の2パターンがあります。

 「伝」があるかないかですね。

 伝というと伝来を思い浮かべますが、別に何かあるわけではないです。

 1.は鑑定として断定したもので、2.は「と云われるものです」とやや弱気。鑑定としては100点と80点ぐらいの違いという事です。もちろん「伝」付きでも重要刀剣になっています。

 誰がどう見ても一文字とか新藤五国光と断定できる作でも昔は「伝」をつけている時もありますので、あまり気にする必要はないかもしれません。


 次に金象嵌銘や朱銘ですが、これも二種類あります。たとえば則重を例としてみますと、1.「銘 則重(金象嵌銘)」、2.「銘 則重(と金象嵌銘がある)」の2パターンがあります。もちろん朱銘も同様。

 何が違うか。書きぶりで分かるかと思います。

 1.は銘の鑑定として断定したもので、2.は「そうした名の金象嵌がある」といったものになり、全くの銘違いもあれば、うーんと悩んで弱気な鑑定という場合もあります。

 これは少し気にした方が良いかもしれません。


 次に無銘で個銘まで極められているかどうか。同じ流派の似た作風の刀工作をどうして個人まで極められるのか……。

 たとえば同じ無銘であっても、1.無銘(新藤五)、2.無銘(新藤五国広)、3.無銘(新藤五国光)と種類があるわけですが、これをどうみるか。

 これら三振りを並べたとすると、出来具合としては1<2<3になります。

 何が違うか。なんとなく分かるかと思います。

 1.は流派として新藤五系列の出来とみたもの、2.は新藤五国光には弱いので国広にしましょうと判断された、3.は新藤五系列で出来が良いから間違いなく国光だ。といったニュアンスになります。

 同じ無銘であっても上位作の個銘に極めても恥ずかしくない特徴と出来映えがあると3.になるわけです。

 これと似たような感じにて、各流派で迷った時に逃げ先とされる銘も存在します。出来映えは素晴らしく良い上位作だが、誰に極めるか悩む……といった時があるわけです。そうなると相州伝であれば行光、来系であれば中島来などなど、程良く落ち着く先がある。


 とりあえず鑑定書から得られる情報でした。

 しかしながら、無銘の場合は日刀保の鑑定も絶対ではなく、なんでこれに鑑定したのか悩んでしまう物もあるわけで……神頼みならぬ紙頼みで日本刀を観ないようにしたいところ。

 また、最近は注意せねばなりませんが、この日刀保の鑑定書も偽物が出回りだしています。実際の偽物を見た人の話を聞くと、証書の色も紙質も書体もそっくりでぱっと見で分からないぐらいだとか。1000万円で買った重要刀剣が偽物で50万円にもならない品だった被害も小耳に挟んで……ああ、恐い。

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