二十振目 試し斬り

 今の時代で斬ると言えば「藁」、「ゴザ」です。

 とはいえ、どちらも簡単には手に入らなくなりました。稲はコンバインでガーッと刈って、自動で藁は粉砕され排出されます。ゴザも畳が減った上に、様々な機能性畳になってなかなか手に入らない。


 それはともかく、試斬について巻き藁の作り方からです。(ただし、流派によって作り方は違うでしょうが)

 まず藁は穂先側を両手で持ち、叩き台など上で渾身の力を込め何度も叩き付けます。これは藁が成長過程で取り込んでしまった小石や土、または表面に付着したものを除去するためです。

 これは念入りに行います。なぜならば、こうした小さい粒ほど刃に絡んでしまって欠けやすくなるからです。

 その後、人差し指と親指の輪に入る分を一束とし、これを五束積み重ねます。大体、下から三、二、一で積みます。束の向きは生えていた時と同様に揃えますが、その内の一束のみは天地逆とします。これで一段目です。

 隣で二段目を積みながら繋げ、その繋げた部分を藁紐で縛ります。この縛り方も独特なのですが……文字では説明できないので省略します。

 こうして三段を繋げると、概ね長さ一メートル程度になります。最後に両端付近を縛り、少し話した位置で裁断し形を整えます。

 これを水に一夜(実際には十二時間)浸水させたものが、一つ胴(読んで字の如く胴体一つ分)となります。伝書に記載された話なので、本当に同じかは分かりませんけど……。

 骨の代わりとして中心に竹を入れる事もありますが、その場合は若竹として古竹は使用しません。

 なお、ここでポイントです。

 試斬する場合は必ず自分でつくった巻き藁を使用しましょう。他人が作った巻き藁に小石が含まれ刃が欠けた時に余計な諍いとなります。また、昔には嫌がらせで、わざと小石を残す事もあったそうですので。

 ゴザの場合はもう少し簡単です。同じく表面などから小石などを除いて巻いて縛るだけ。ただし、巻きをキツく締めておかなければ後で台に刺さりません(後述)。浸水時間は藁と同じく一夜です。

 これらを樫製の試斬台に立てます。

 台には先を尖らせた杭が突き出ていますので、ここに巻き藁やゴザの中心を刺して固定します。真上から腰を入れて、真っ直ぐに落とさねば上手く刺さりません。また、藁の縛りやゴザの巻きが甘いと台への固定が(杭に突き刺す)甘くなり、ぐらぐらと揺れるので駄目です。


 水に浸す事に関してですが、浅浸けは硬く斬り難く、深浸けは斬り易くなります。なので人前で斬る場合は長めに浸して柔らかくするとか、嫌いな相手には短めに浸した藁を斬らせて嫌がらせするとか……そんな事があったり……。

 また、水から出して時間が経つと腐りだします。草の強い臭いがして嫌いな人には耐えられないほどです。田んぼや畑に撒くと良い肥料になりますが、そうでなければ早急にゴミ袋に入れ密封し生ゴミに出しましょう。


 斬る場合は鋒が弧を描くように留意します。駄目な斬りは、鍔部分が先に降りているパターンです。正しい動きは釣り竿で重りを飛ばすイメージでしょうか。

 実際に斬る時は、気負わず軽い気持ちで行きます。刃筋さえ真っ直ぐであれば、簡単に斬れます。これまで断つように斬ると説明してきた事と矛盾するようですが、試斬で腕力は関係ありません。ほとんどスピードで斬るようなものです。

 あっさり斬れて、むしろ振り止めに苦労するぐらいです。特に腰の据わりが悪い場合は鋒を地面に落とし刃を損じやすいです。


 下手な人が斬るとザクッもしくはゾスッと鈍い音がして、斬られた部分が引きずられながら落ちていきます。

 上手い人が斬ると、パスンッもしくはポンッと軽い音がして、斬られた部分がヒョイッと持ち上がってから落ちていきます。特に上手な人は、物打ち部分(鋒から三寸下)でパンッと叩いただけで斬っているように見えないぐらいです。

 あまり試斬の話にならなかったような……とりあえずこんな感じという事で。

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