十二振目 鑑定結果が全てだが全てではない

 日本刀の真贋を見極め、誰の作かを見極める鑑定は鎌倉時代初期には既に行われていたようです。

 さらに南北朝時代頃の歴史物語である「増鏡ますかがみ」では、後鳥羽上皇について「剣などを御観じ知ることさえ、いかがで習はせ給ひたるか、道のものにもややたち勝りて……」と述べています。つまり、「道のもの」=「玄人」という事なので、鑑定を専門に行う人がいたという事です。

 鑑定家で有名であるのは、江戸時代であれば本阿弥家。折紙を発行したりしていました。この本阿弥家の鑑定については……いろいろあるので置いておきます。


 日本刀において一番不安なのが真贋。そのためには鑑定で本物だと(もしくは、皆が本物だと認めてくれる)証明して貰う必要があります。

 現代において最も信じられている鑑定!

 ずばりそれは日本美術刀剣保存協会(以後、日刀保という)の発行する鑑定書&指定書です。

 これには、審査としては「保存刀剣」「特別保存刀剣」「重要刀剣」「特別重要刀剣」の四種類があり、前の二つが鑑定、後の二つが指定となります。なお、鑑定や指定される事を「合格」と言います。


「保存刀剣」(通称で「ほぞん」)

 銘の真贋を証明。江戸時代までの在銘無銘が合格し、明治時代以降は在銘で出来が良いもののみ合格。再刃は基本駄目ながら、南北朝以前のものや価値の高いものは合格。基本的にこれがあれば、刀としては信頼できる。


「特別保存刀剣」(通称で「とくほ」、「とくべつほぞん」)

 保存刀剣の中でより優れ状態の良いものが合格。室町時代以後の作で無銘刀は駄目(この時代になると無銘は基本ありえないため)。ただし価値の高い無銘刀は合格。

 まあまあ合格しやすく、これぐらいのランクがあると売買に有利。


「重要刀剣」(通称で「じゅうよう」)

 鑑定ではなく指定という形になります。

 特別保存刀剣よりさらに優れ、重要美術品に準ずると証明する。南北朝時代までは無銘でも合格、室町時代以後は在銘のみ合格。さらに江戸時代以後は生ぶ茎在銘(要するに製造時の状態)のみ合格。

 ここから審査が厳しくなるものの、値段にも大きく反映されるため皆が狙う。研磨が増える一番の原因。


「特別重要刀剣」(通称で「とくじゅう」)

 重要刀剣より「さらに優れる&状態が良い&資料価値が高い」重要美術品相当、重要文化財に準ずると証明する。

 基本的には普通の人が普通に手に入れた刀は合格しない。号のあるような名物・有名な謂われ・本阿弥家の折紙・〇〇家伝来の証明、ひと目見て惚れ惚れするような名刀でなければ合格しない。

 刀剣家の憧れ。値段も跳ね上がり、重要刀剣から夢を見ての申請が絶えず、やっぱり研磨が増える原因。


 こうしたランク鑑定となっています。下から順番に一つずつ鑑定して貰わねばならず毎回鑑定料が徴収され協会の貴重な財源にもなっています。

 ランク鑑定のおかげで、誰でも刀の価値を明確に表現でき、また刀剣商でも客に対し自信を持って販売する事が出来ます。一方で鑑定書があるかないか、どのランクにあるかで同じ刀であっても値段が格段に違ってしまう。

 故に刀剣商などは、少しでも上ランクに合格させようと大量に鑑定に出します。日刀保から遠慮するよう注意されても、家族や知人の名前を使うなどして大量申請をしているのが現状。

 そして一番の問題は、このランク鑑定を気にするあまり、もはや日本刀そのものではなく紙(鑑定書)の方を気にしてしまうようになる事。


 その他の鑑定書。

 もちろん現代でも、日刀保以外で発行される鑑定書も少数ながら存在します。真面目に頑張っている所もあれば、何故か著名刀にしか鑑定しない所もあったりするわけで……。

 現実として、日刀保以外の鑑定書は店では全く相手にされません。保存刀剣の鑑定書は簡単に取れますので、これがない時点で偽物と断定されるぐらいです。

 日本刀を買うのであれば、絶対に日刀保の鑑定書付きを買いましょう。


 ただし、この日刀保の鑑定でも過去には不祥事が何度かあります。

 特にかつて発行していた「貴重刀剣・特別貴重刀剣・甲種特別貴重刀剣」というものは全く駄目です。

 当初こそ良かったものの、各地方の支部で好き勝手に発行されだし……あまりにいい加減すぎるため、鑑定は東京のみで行うとして上記の保存刀剣などに鑑定書が刷新されました。今やない方がマシなぐらい信憑性なし。

 一部では貴重刀剣などの鑑定書を堂々と掲げ、知らない人相手に売っている事もありますので注意しましょう。

 その保存刀剣などの鑑定も年代によって精度が悪かったりですが、どの年代かはいろいろ差し障るので置いておきます。

 とはいえ平成十六年以降の日刀保鑑定書はさらに精度が高いと言えます。理由は、この年に日刀保で不祥事が発生、鑑定もこれを機に引き締めが行われたからです。平成十六年の重要刀剣合格数を見れば、その年がいかに厳しく鑑定されたのか一目瞭然。(もしかすると鑑定応募数が少なかっただけかもしれませんが)

 とはいえど……今だに忖度というものがあったり。

 たとえば「〇〇先生の鑑定した結果があるため、先生に敬意を表し鑑定結果はその通りにせざるを得ません。しかし今の鑑定では、必ずしもその鑑定結果は正しいと言えません。ですから保存刀剣以上は合格できません」なんて事も。

 やー酷い。

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