十三振目 日本刀三人説のこと

 日本刀について「斬ると脂がまいて三人で斬れなくなってしまうでしょ?」などと言われる事が時々あって……。

 なんと言いましょうか、はい。

 日本刀を実際に持った事があれば、直ぐ誤解分かる程度の事なのですね。

 そもそも――「その程度しか使用できない武器が千年近くも製造されるはずもない」という事で、全ては歴史が証明しているわけです。

 これで終了するのもつまらないので、もう少し追加。


 勘違いの原因は、きっと日本刀を包丁剃刀と勘違いしているからでしょうか。

 庖丁や剃刀は対象に押し当てた後に引いて切りますが、刀は対象にぶつけるようにして断ちながら斬ります(もちろん引けば威力は高いですが)。

 重量1kgある鉄の棒で殴れば凄まじく痛い。下手すれば骨が折れ、肉が裂ける事だってあります。その丸棒を、より振りやすいよう板状とし刃をつけたのが剣(日本刀以外の全ての刃物)と思って下さい。

 打撃力の全てが刃という狭い部分に集中するため、対象に食い込み、引き裂き斬っていくわけです。

 で、日本刀の場合は反りがあるので打点が小さくなり、その反りのおかげで次の打点が隣接箇所を連続しながら斬っていくわけです。表現としては、やっぱり「ぶった斬る」がぴったりでしょうか。

 こうした運用に対し、厚さ数ミクロンの脂が刃に付着したからと斬れなくなるか? 答え「ならない」です。


 刃の部分が非常に鋭いのであれば、斬った瞬間に刃が潰れるなどして斬れなくなるのでは? そう思うかも知れませんが、日本刀の刃ってのは非常に頑丈です。

 具体的には……石に思い切りぶつけ刃がめくれた(涙)際の経験から。

 このめくれ上がった刃を直そうと、砥石で削ると砥石が削れました。コンクリートで削るとコンクリートが削れました。鉄ヤスリを使うとようやく削れましたが、微々たるものです。とんでもなく硬い!

 人体に当たった程度で刃が潰れるなんて、とてもとても。


 では、なぜこんな迷説が流布したかと言えば……第二次世界大戦に出征された方の追憶記が原因。そこに三人程度で斬れないといった一文があって……ただし、実際には斬れなかった事について具体的には書かれていないような分ですが……それが原因。

 色々突っ込み処満載な内容なのですが、なぜか日本刀に関する記述のみが広まっているというわけですね。

 日本刀と言えば「斬れる、鋭い」といったイメージが強い中で「三人しか斬れない」といった言葉はインパクトがあります。だから三人説という話をネットで見かけた人が、面白おかしく広めているのでしょうか。


 あとは、自分自身で刀傷をこしらえた時とか、もっと深手を負った人の刃を見るのですが、脂と思えるものは全く付着していない。さて、どうやったら斬れ味が落ちるほど脂が付着するのか。よっぽどメタボでないと無理なのか……。

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