十一振目 研げば減り元には戻らぬ
日本刀の研ぎは刃物としての切れ味を維持するためというよりは、美観のためです。既に鎌倉時代頃には行われており、そこに日本人の美意識というものを感じてしまう。
美術刀剣という側面が強調される現代では殊に美観の面が強調されています。特に鑑定に出す際には、その鑑定ランクに応じた研ぎが必要ともされており、やたらと研がれているのが現状。
恐らくは刀が最も研がれているのが今の時代でしょう。それも鑑定に合格し刀の価値(値段的な)をあげるためだけに研がれ続けているのです。
研げば当然ですが鉄は減ります。少しずつではありますが、日本刀は薄くなり損耗していく。そして減った鉄は二度と戻らない。
それを思うと研ぎは必要最小限に抑え、健全な状態で後世に残すことを考えていきたい。
それはそれとして、上研ぎから並研ぎまで差があるものの、料金は寸辺りで一万円程度。定寸(二尺三寸)の刀を研ぎに出せば二十万円近い! 短刀では一振り単位の金額設定となって十万円程度。
彫りがある刀、現代刀、錆の深い刀などは割増料金。
さらに錆のある刀は白鞘内の掃除も必要となって、さらに増額ドン。
研ぎ師の方によって値段設定が異なるので目安程度に……ただし研磨料金が高いから良い・安いから悪いとは必ずしも言いきれない。もちろん、その逆もありです。
とにかく信用できる研ぎ師に巡り会うしかない!
運が悪いと……ぎーらぎらのぴーかぴかに研がれてしまって……古刀がああああっ! なんでステンレス棒みたいになるんですかああああっ! 平肉どんだけ落としたんですかああああっ! ……と泣く事になります。
これは本当、泣けます……。
また一般的には依頼に出せば二ヶ月前後の作業期間。
これまた運が悪いと……半年経っても終わらない? なんで? 先月に手を付けますって言ってましたよね? 自分で納期定めてましたよね? あれ一年経ってしまった……とまあ、ルーズな方もいます。
研ぎの善し悪しを見るのであれば、反射光を鋒から手元まで一連で動かすと判りやすいです。反射光の形が歪まないもの、鎬筋や横手などの角が立っているものなどが良いです。
また肌が潰され表面が鏡になった研ぎは駄目です。表面に薄く膜があり、奥行きを感じ地鉄が見えるような状態が名人研ぎです。
そして横手(鋒と下を分ける部分)、鎬筋などの線部分がぴんっと立って明確なほど良い研ぎです。
本当に名人の手にかかると刀の魅力が倍増します。研ぐと減るとはいえど、名人に研いで欲しいという気持ちはいつだってあります。
なお研ぎによる違いの所感です。
A:鎬筋の反りに滑らかさがなく、直線が連なった状態。鎬筋や三つ頭などの線が立っておらず、きりっとしてない。反射光が大に小にと変動。磨き工程で鍛え肌が潰されている。
B:鎬筋の反り滑らか。しかし磨きが鏡面のように仕上げられ落ち着きがない。
C:鎬筋の反り滑らか。しっとりとして落ち着き、地肌が良くわかる。
D:鎬筋の反り滑らかなめらか。地鉄の表面が艶を持ったように明るく冴える。ただ映りなどは見にくい。
E:鎬筋と横手の線がピンと立ち清々しい。地鉄表面が艶やかで明るく冴え、表面に薄い透明な膜があるように見え鉄に奥行きさえ感じる。落ち着いた雰囲気。
F:古研ぎ。刃文はくっきり、肌が落ちつき地沸がよく分かる。
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