赤い牙、到着
空港からぞろぞろと外国人の男女が出てきた。服装は様々。多少、スーツ姿の方が多いくらいだった。
「人間、いっぱい、いる。おなか、すいた」
「ダメよゴウラム。この国では人が一人死んでもやたらと大騒ぎするらしいから。食べるときは慎重に摂取しないとダメよ」
「バンター、でもおれ、はら、へった」
ラフな服装だが、その体は二メートル半もあるだろう巨体の男が、涎を垂らしてあちこちを見る。
「我慢しなさい。まだダメよ」
「うう……」
スーツ姿のバンターと呼ばれた栗色の髪をした女性に制止され、ゴウラムと呼ばれた巨体の男は涎をすすった。
「ゴウラムは巨大な力と引き換えに知性が落ちている。しっかり手綱を締めておけ」
「分かっているわ、ヘラム。そしてあなたたちの部下にも言っておきなさい」
「俺たちはこんな間抜けとは違うぞ!」
「承知している。バカにしないでもらおうか?」
「やめろコリオリ、オーダー。所詮ゴウラムを飼っていないと何も出来ない女だ」
「アンタだって、部下を連れていないと大した事ないでしょ?」
「そういう話題は好きじゃないな。やめてくれ。水掛け論だと何度も言っているはずだが、忘れたか?」
「……ふん」
遠巻きに視れば、旅行にでも着たかのような外国人の集団だが。この三十八人の戦士たちは――
「そう、我ら赤い牙。個にして群であり、群にして個ともなれる。このトウテム。内部での下らん言葉遊びなど聞きたくもない……」
「はいはい、たった一人で赤い牙になれたアナタは特別の特別。そう言いたいんでしょ? いつも上から目線で気に入らない」
「バンター。今の言葉では私は揺るがない」
「ふん!」
「まあ、良くも悪くも、俺たち赤い牙は、特別なんだ。そうみんな特別。精鋭された超人なんだ。力を誇るのも、他者を卑下するのも、強者の特権ってやつだ。うん、みんな信じているよ僕は。皆はやるときはちゃんとできるって」
「クルオスティアの偽善が始まったわ。耳が腐りそう」
「そう言わないでおくれよバンター、僕は心の底から、赤い牙と、その仲間に誇りを持っているんだ。これは本当だよ」
「あー、反吐が出る。ぺっ」
「本当に出さないでおくれよ、バンター」
「……ちっ」
「クルオスティア様は優しいお方だ。貴様の腐った性根とは違う!」
「やめてよルーオー。僕は本当は人を従えるなんて、従属させるなんて嫌なんだ。それに口げんかも嫌だ。醜いものは視たくないよ」
「はっ、わかりました。クルオスティア様。失礼をいたしました」
「もう、ルーオーったらまたそんなに硬い頭をして。せっかくの遠出なんだから気楽にいこうよ、ねえ?」
「ありがたき御慈悲、感激の至りでございます」
「ああもう、ルーオーってば……」
「みな、もういいか?」
「ルカリオン。そうだね、ここでずっとしゃべっているのは、きっと他の人たちに迷惑だよね。ごめんね」
「で、どうするのよ、私たち赤い牙のリーダー、ルカリオン様。此度のエルガイア討伐は?」
「いつもどおりだ。必要があれば群として、あるいは個として柔軟に動く。それが赤い牙がただの精鋭部隊ではない証だ」
「まさかこんな世界になってまで、あなたの弁舌を聞かなきゃならないなんてね……」
「バンター。何がそこまで機嫌が悪いのかは計り知れぬが、我々は任務中である事。重々承知の上だろうな」
「わかってるわよ!」
「まずば祖国の時と同じように、バスという大型車両を確保して、エルガイアが発生している場所まで行く」
「ねえ、ルカリオン」
「何だ? クルオスティア」
「うんうん、現場まではちゃんと皆で行くとして、それからの討伐方法はどうするの?」
「とりあえずは今のエルガイアの状態を把握するために軽く接触することにしよう。現地ではまず精鋭部隊らしく――」
「群としてチーム別で動いて、早い者勝ち。必要とあらば十二チームある中から協力して撃破。討伐方法にルールはない。ただし、エルガイアが予想以上の力を取り戻していたとしたら、ルカリオンの指揮の元、赤い牙は個として確実に討伐する。いつもの通りね」
「そうだ、バンター。遊撃で無理ならば一丸になってこれを叩く」
「けって~い。私とゴウラムが特別賞をクリミナルア様からいただき決定」
「バンター、今のエルガイアは昔とは違うらしい。慎重に動いてね、君のゴウラムは、その、あの、あれだからさ……」
「クルオティア、アナタ私のゴウラムに文句あるの?」
「いや、そういうわけじゃないよ……ただ、君たち二人はその、あの、アレだからさ」
「言いたい事があるならちゃんとはっきり言いなさい、喧嘩なら買ってあげるわよ」
「そういう意味で言ったんじゃ――」
「いい加減にしろ」
ルカリオンと呼ばれた、赤い牙のリーダーが一喝した。それで全員が即座に口を閉ざし、表情を引き締めた。
「行くぞ、エルガイアの討伐に」
任務の内容を改めて硬く口に出し、第三王子クリミナルア直下精鋭部隊『赤い牙』は、リーダーであるルカリオンを筆頭にして、動き出した。
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