特殊捜査第七課

 コツコツコツと革靴の足音を立てて、『特殊捜査第七課』と立て札のついたドアノブに手をかける。


 ノブを回して、勢いをつけて開いた。


「ちょっと舘山寺さん」


 後ろにいる木場の言葉も振り切って室内に入る。中心に集まっているデスクのせいで部屋の中は手狭だった。


 室内には白バイ隊の愛隣さん、ミュータントを医学的に追求している毒島さん、それから見慣れない勝気な空気を持った女性。……の注目も無視して、課長の席に座っている月島修三課長の前に立つ。


「ようこそ、特殊第七課……特ナ課へ。舘山寺晃一警部補」


 バンッ!


 課長の席を両手で叩き、月島課長を射抜くように見る。


「……何かな? 舘山寺警部補」


 俺ははっきりと言いきった。


「こんな少数ではどう足掻いてもミュータントに対抗できません! 今すぐ全警察組織を動員して、三十体を超えるミュータント部隊に対抗すべきです!」


「……ふむ」


 堀の深い月島課長の表情は変わらない。身体的ピークは過ぎたものの、当時は県内最強の剣の達人……剣豪月島と呼ばれた人物。ほとんど威嚇のような自分の言動でも、月島課長はまったく動じなかった。


「月島さん!」


 さらに声を荒げて追求するも、両肘をデスクに置いて両手を組む月島課長はため息をつくだけだった。


「舘山寺警部補。そして木場警部補、君たちがミュータント達と最も多く接触し、また同じミュータントに変身できる結崎拓真君……エルガイアのサポートをしてきたのは知っている。そして、君の後ろにある物を確認してくれないかね?」


 月島課長に言われて振り向くと、デスクの上にいくつものアタッシュケースが並んでいた。


「中身は豊和工業の八十九式自動小銃……自衛隊が使っている、いわば軍用ライフルだ。……さらに我々全員には、個人で機動隊を緊急出動させる権限ももらっている。不服かね?」


 俺は拳を握って憤りをぶちまけた。


「今度のミュータント達は、今までの被害の比になりません。たったこれだけの装備と人員で、どうにかできるわけがない。……です」


「ほう、そうかね」

「はい。そうです!」


 月島課長とにらみ合う。といっても、月島課長は真剣な顔を一ミリも動かしてはいなかった。


「たったこれだけの武装と権限で、大勢のミュータントを何とかできると、月島課長は思っているのですか?」


「それは、見解の相違。という所だねえ」

「見解の相違?」

「まず、そのライフルの意味を考えてくれたまえ」


「明らかに、こんな装備でどうにかできるとは思えません!」


「ほう、そう思うかね?」


「はい、そうです! むしろ自衛隊の協力要請も、最悪必要になってくると思います」


 そこで、月島課長はため息をついた。


「少し頭を冷やしてもらえるかな? 冷静になってもらいたいな。舘山寺警部補」

「…………」


「そのハチキュウライフル。自衛隊が実際に使っている正式なライフルだ。まず二つの仮定を立てよう……もしこれがミュータントに通用するのであれば、何も問題ない。機動隊も自衛隊も必要ない。十分に戦える」


「…………」


「だがもし、このライフルがミュータントにまったく効かないのであれば、それは機動隊でも自衛隊でも敵わない。と言う事になる」


「じゃあ――」

「じゃあ何かね? 機動隊も引っ張り出して自衛隊の協力も要請させ、ライフルが効かないのならば、戦車でも戦闘機でも出すのかな?」


「くッ……」


「市街地を戦場にするのかね?」

「それは……」


「この支給されたライフルには、そういう大きな意味が込められている。舘山寺警部補、少しは頭が冷えたかね?」


 ぐうの音も出ないとはこのことだった。反論が出来ない。


「では改めて、舘山寺警部補、そして木場警部補、ようこそ特殊捜査第七課へ。課長の月島修三だ。ミュータントの捜査、よろしく頼むよ。そしてこれから人員も出来る限り精鋭が集まってくる予定だ。舘山寺警部補。君のミュータントに対する経験はとても貴重だ。是非その力を存分に振るって欲しい。以上だ」


「…………」


「……まだ何か言いたいことはあるかね?」


「いいえ、ありません。よろしくお願いします」


 爪が手の平に食い込むほど握り締め、俺は何とか言葉を搾り出した。

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