Prologue3―赤い牙編 前編―
侵食
俺の体の調子を診てくれている野島医師。キィ……と椅子の音を立てて、レントゲン写真を片手にこちらを向いた。
「あの、どうですか……?」
「ふむ」
野島医師は顎に手を当ててレントゲン写真を目を細めて見つめる。
「侵食が、右の肺の半分まで進行しているね……体調に変化はあるのかな? たとえば急な息切れ、酸欠、痛みや異物を感じるなどは?」
「まったくありません」
「ふむう」
ジャングル達、エルガイアへ復讐を果たすためにやってきたミュータント達を倒して、一週間が過ぎていた。
難しい顔で額にシワが寄る野島医師。
そして重たい口を開いた。
「正直なところ、侵食の進行が早いんじゃないかと思うんだよねえ」
どきり。と俺の中で胸が高まり、首の後ろがちりちりと暑くなった。
「何か心当たりは、あるのかな?」
「いいえ、ありません」
俺は嘘をついた。
この場に舘山寺さんと木場さんがいなくて本当に良かった。あの二人だったらすぐに感づかれていたかもしれない。二人は大事な用事があるということで、俺は一人で診察を受けに来ていた。
「まぁ、肺もそうだけど……問題は心臓に侵食が達した時なんだよねえ」
「心臓、ですか?」
「うん、そうだよ。心臓」
レントゲン写真を片手に、野島医師は自分の心臓のある部分を指した。
「心臓は絶えず動いている。寝ていようと気絶していようともね……だから危ない。もし、心臓が侵食され始めたら、エルガイアとしての筋肉と、人間としての筋力に二分割される……これは大変危険な状態だ。硬いものと柔らかいものに分割され、何度も動いたら、その境目から亀裂が走り、最悪裂けてしまう可能性がある」
「じゃあ、侵食が心臓にまで達したら……」
「うん、大変危険な状態になるね」
野島医師はさらりと言った。
「何とかならないんですか?」
「ならないね」
野島医師が首を振った。だが、どこか諦めたふうでもなかった。
「正直なところを言うと、私ではもう限界だ。いや、この医療施設ではこれ以上その未知の寄生生物エルガイアの侵食具合を見ることしかできない」
「…………」
そうだよな、やっぱり。
こんなモノをどうしろというのか?
「だからね、結崎君。これからは専門の医師……いや、研究者に任せようと思うんだ。おそらくそっちの方が、その未知の生物を調べるのに適していると思うんだ」
「専門?」
「うむ、ミュータントの死体を調べている大学の生物関係の専門家、研究所と言ったほうが正しいかな? なんとか私も取り次いで、了承を得たんだ。これからはこの病院とそちらの方で寄生生物エルガイアについて追及していこうと思う。いいかな?」
「…………」
ミュータントの死体を研究している専門家達。
「不安かね?」
「ええ、まあ。少しは……」
「君は解剖なんかされないから大丈夫だよ」
「そのギャグはちょっと……」
はっきり言って笑えない。
「こほん。まあ、段取りはこちらであわせておくから、近いうちに準備ができ次第連絡を入れるということで。
「はい、わかりました」
一通り話が終わり、俺は診察室を出た。
――思った以上に進行が早い、のだろうか?
俺の体は、俺の体でいられる間は、あとどれくらいなのだろうか?
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