激闘、終わって……

 カガロ。


 もしかしたら、今度こそ、分かり合えた相手だったのかもしれない。

 今さらながら、そんなことを思ってしまう。


 彼の最後に垣間見た、人間との話。


 彼は人間とかつて共存していた。共存できていたのだ。

 だがエルガイアが人間側に付く事になり、ミュータント達は完全に人間の敵だという認識が広がり、人間とミュータントの間で深い溝が生まれた。


 その弊害を一心に受けたのが、カガロだった。


 彼の最後の言葉。怨嗟のこもったエルガイアへの言葉。

 そしてその涙。

 もし出会い方が違えば、もしかしたら……。

 

「拓真君、よくやった」

「……はい」

「どうした?」


 舘山寺さんがこちらを見て聞いてくる。


「何か異常でも出たのかい?」

「いえ、何でもありません。結構疲れただけです……」

「……そうか」


 周囲はパトカーの出す赤いランプで眩しかった。


 その中の一台のパトカーの後部座席に座り、ドアを開けたままうなだれた。


 戦い疲労が、どっと重くのしかかる。


「拓真君、お疲れ様」

 コートを持った木場さんがやってきて、俺の肩にそのコートをかけてくれた。

「ありがとうございます」


「作戦は大成功だったね! 良く頑張ったと思うよ!」

「はは……ありがとうございます」


 ぐぅ、きゅるるるるるる


 よほどエネルギーを消費したのか。俺の腹の虫が泣いた。


「もうちょっとだけ我慢してね。後始末が終わったら、焼肉でも食べに行こう」

「はい……」

「じゃあ、僕も後始末を手伝わないといけないから」

「はい」


 木場さんが去っていった。


「…………」


 復讐に道理無し。


 あのサイクロ族のメッツラの言葉が脳裏に蘇る。


 理屈じゃないって事か……。


 復讐。


 それは超人であるミュータント達の心も蝕んだ。

 エルガイアへの復讐。

 彼らはそれに駆り立てられている。

 

 俺は昔のエルガイアじゃない。だから当時の記憶も一切無い。

 それでも彼らはやってくる。


 気がつくと、拳を強く握っていた。

 その手を緩める。


 震えていた。俺の両手は震えていた。


 どうにかできないのか?

 どうにもならないのだろうか?


 人として、超人であるエルガイアとして。

 俺はその復讐心に対して、戦う事でしか答えられないのか?

 それしかできないのだろうか?


 ――答えは、出ない。


 わからない。

 どうすればいいのかわからない。


 俺は残るミュータント達と、どうすればいい?

 俺にできる事は、戦う事しかないのだろうか?


 改めて、エルガイアという力について深く考える。


 本当にこれで、ヤツラの復讐心に対して、

 この力で、戦う事でしか答えられないのだろうか?

 分かり合い。それはやっぱり不可能なのだろうか?


 俺はエルガイアとして……。

 エルガイアとして……。


 一度大きく息を吸ってから、長く吐き出す。


 今日は、本当に疲れた。

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