暴走ミュータント対抗戦 後編

 十二台の白いバイクがサイレンを鳴らしてカガロのバイクを追いつめる。

 カガロのバイクに接近する三台の白バイ。


 だが走行中のカガロに蹴りを入れられ、一台の白バイが横転して脱落した。


 さらに接近したもう一台もカガロが急な横付けで蹴りを入れる。もう一台が横転して脱落した。残り十台。


 けたたましいサイレン音。唸るバイクの集団。


 一気に六台の白いバイクがフォーメーションを組むようにカガロを取り囲んだ。カガロが白バイに接近して蹴りを入れようとするが、陣形を組んだ白バイは容易きそれをかわし、カガロのバイクを取り囲んで無理矢理減速させる。


 こっちの愛隣凛太郎さんのバイクは後方で速度を維持し、様子を見ている。


 蛇行するように走るカガロのバイク、近づく白バイに蹴りを延ばすが、陣形を維持しつつ白バイ隊員達はそれをかわし続けた。


 ヤツの心境としては歯がゆいだろう……運転に荒っぽさが見えてきた。


 三台の白バイがカガロのバイクの前方を陣取り、横三列になって壁を作って減速する。


 カガロのバイクも、衝突を避けてか、やむ得ない様子で減速した。


 後方にいるこちらにどんどんカガロのバイクが近づいてきた。


「愛隣さん! ヤツのバイクの隣に移動してください! 俺が飛びつきます!」

「やれるのか?」

「やらなければやつは止まりません!」

「……チャンスは一度だぞ!」

「はい!」


 減速されて接近してくるカガロのバイク。愛隣さんがカガロの足が届かない距離を保って横に張り付いた。


 ――よし、いける!


 タイミングを見計らって、愛隣さんのバイクから飛び上がり、マイクで走っているカガロに飛びついた。


 何とかカガロのバイクの後部に着地できた。


「おりゃ! 止まれぇ!」


 カガロに後ろからヘッドロックをして無理やり引っ張る。

 そしてカガロをハンドルから手をはがさせ、バイクが横転すると同時にジャンプして車道のアスファルトに着地した。


 カガロはバイクと一緒に地面をごろごろと転がり……カガロの乗っていたバイクが爆発した。カガロが地面に這い蹲るように姿勢を整え……第二ラウンドのが始まった。


 今度はこっちの番だ!


 カガロに急接近し、拳打を何度も打ち付ける。


「せやぁ!」


 その場に飛び上がってカガロの首にハイキックを叩き込んで、カガロを吹き飛ばした。


 手ごたえは確かにあった。放った足を通じて、カガロの首の骨から異音を感じた。


 白バイ隊員達も戻ってきてカガロを取り囲んだ。


 首を押さえて立ち上がるカガロ。そこへ一台の白バイ、愛燐さんのバイクがカガロに急接近した。


 カガロの目の前でバイクを振り回すようにスピンさせ、カガロを白バイの後部をぶち当てた。百キロを越える大型の白バイ、その勢いをたたきつけられ、カガロが吹き飛ぶ。


 ――いける!


 これなら勝てる。決して油断ではなく、心強い仲間と戦っている勝利への実感。


 カガロが再び立ち上がるところを、俺は走り込んで飛び蹴りを浴びせた。


 再びごろごろとアスファルトを転がるカガロ。


 このまま追い込む!


 さらにカガロに肉薄して、拳打のラッシュを浴びせる。

 カガロも応戦してきたが、ダメージの蓄積からか動きが鈍い。


 いける。


 カガロの攻撃を、拳と蹴り、頭突きをかわし、いなし、受け止め、反撃をする。

「はあああああああ! はあっ!」

 その場で回転し、カガロの足を払い、さらにもう一回転して今度はカガロの胴に回し蹴りを浴びせる。


 今度は肋骨に手ごたえ、ミシリという骨の悲鳴を感じた。


 あともう少し、あともう少しだ!


 一気に畳み掛ける。

 そうカガロへ飛び出そうとしたとき。


 ドクン!


 カガロから心臓が跳ねるような音を聞いた。


 なんだ?

 接近するのをやめて、カガロの様子を見る。


「う、ううううううああああ」


 ドクン! ドクン! ドクンドクン!


 何度もカガロの心臓が跳ね上がる。それと共に急に苦しみだすカガロ。

 何があった? ヤツに何が起こった?


「に、にんげん……ニンゲンノニクううううう!」


 なんだ、何を言って――


 はっとなって気がついた。


「お前、人間を食べてないのか!」


 ミュータントは人間を食べる。食人鬼でもある。そのカガロはもう長く人間を食べていないのだろうか? 頭を抑え、悶え、人間人間、人間の肉と呟いている。


 ミュータントが人間を食べていないと、どうなるのだろうか?


 それが今、明らかになる。


 ゴパァッ!


 カガロの口が大きく変形し飛び出した。


「ニンゲン、ノ、ニク。ニクゥゥゥゥゥゥゥ!」


 正気を失ったカガロが、距離を取って待機していた白バイ隊員へ向く。


「ニンゲンノニクゥゥ!」


 一人の白バイ隊員へ襲い掛かった。

 白バイ隊員、愛隣さんも拳銃をホルスターから引き抜き応戦した。


 パンッ! パンパンパン!


 リボルバー拳銃を立て続けに、カガロの大きく変形した口に向かって銃弾を打ち込んだ。


「うがあああああああ!」


 さすがに口内までは硬くなかったのだろう、アムタウ族の皮膚ならば、拳銃の銃弾ぐらいは簡単に弾く。だが口の中に銃弾を打ち込まれ、カガロの鮮血が散った。


 大きく変形したカガロの口が元に戻る。


「ウエッ! ゲホゲホ、ゲボオオオ」


 嘔吐するかのように、カガロの口の中から血がどんどん吐き出される。

 いや、実際に嘔吐していた。食べ物の未消化物と胃酸の臭いが血に混じって臭ってくる。カガロの体調が急変しているのは明らかだった。


 だが、このままでは無差別に人間を襲い始めるだろう。


 逃がす事はできない。


「カガローーーーー!」


 大声で呼びかけ、こちらに向いた所で構えを取る。

 弓を引くような体制で、左腕を突き出し、右腕を引く。

 右腕に力を溜め込み、炎がゴウッとほとばしった。


「フレイム、オーバー、ブレイクゥ!」


 カガロに飛び込むように肉薄し、炎をまとった右腕を、カガロの心臓に突き刺した。


「バースト!」


 カガロの振動を貫いた右腕、そこから炎を余すことなく吐き出した。


 一気に火だるまになるカガロ。


「くそっ! クソオオオオオ!」


 叫ぶカガロ。右腕を引き抜こうとして……その俺の右腕をカガロが両手で掴んできた。


「だから、だから人間は嫌いなんだよ!」


 カガロが、涙をこぼした。


「どいつもこいつも俺を化け物扱い……こうやって追い込まれて死んだ仲間が何人いたことか……ほんとにクソ野郎共ばかりだ! だけど、だけどそれでも、俺を受け入れてくれる……優しい人間もいたんだよ」


「カガロ……」


 炎の中で涙を流し、怨嗟の呻きをあげるカガロ。


「こんな俺でも、受け入れてくっるニンゲンたちがいた。昔にも、この時代にもいた……だけど、エルガイア! お前のせいだ!」


「なんだって」


「お前が人間に加担し、それで俺達は完全に化け物扱いされ、優しかったヤツラとの絆を腐らせた……昨日まで優しかったヤツラが、目の色を変えて、俺達を追い立てた。優しかった人間たちが、今度は俺達を敵視して攻め立てられた。エルガイア、お前のせいだ! お前がいなければ、俺達は平和に暮らして共存していけたんだ!」


「そんな……」


 カガロが掴んでいる俺の右腕に、爪を立てて強く握り締めてきた。


「お前のせいだ! お前のせいで俺たちは! ……チクショオオオオオ!」


 カガロに内包された炎が限界を突破し、カガロを木っ端微塵に爆散させた。


「……カガロ」


 もう呼びかけても、体の上半身が爆発四散し、カガロの下半身だけが残った。

 その下半身が、どさりと地面に倒れる。


「…………」


 カガロ。もしかしたら、俺達はお前と……。

 だが、もう遅かった。


 ひゅううと風が吹きすさび、カガロとの決着がついた。

 戦いは、終わった。

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