発見
昨晩のビル崩落事件、それはミュータントと拓真君に関係していた。一般では欠陥建築物か? 謎のビル崩落事件。と騒がれているが、彼に呼び出されて事情を聞くと、サイクロ族のメッツラ、アムタウ族のギメガミという女性のミュータントと出会ったという。
やっぱり今回の事件は一括してエルガイアに集中している。
拓真君から取った事情聴取と、その自分で書いた報告書を交互に見て、提出できるものだと心を決め、大杉課長に提出した。
「はあ……」
やはり、二十四時間拓真君を監視し、守りにつかせるべきだろうか?
「舘山寺さん、ため息ばかりだと幸せが逃げていきますよ」
「うるさい」
木場の軽口を簡単にいなし、自分のデスクについて砂糖がたっぷり入ったコーヒーに口をつける。落ち着いた思考に余裕ができ、シュークリームが食べたいなあと、ぽつりと思った。
と、その時――
ドバンッ!
相当な勢いで出入り口のドアが開いた。
「はぁ、はぁ……」
出入口で一人の巡査が息を切らして現れた。
どうも様子がおかしい、署内を走ってきたのか、もしくは激しく動揺しているのか?
「どうしたの?」
木場が巡査に歩み寄って聞く。
「こ、これを……これを見てください!」
木場の背中で全く見えないが、その巡査は何かを木場に渡した。
それを見た木場が「はぁ?」と叫んで硬直した。
なんだ?
こちらもデスクから立ち上がって木場が手に持っているものを見る。
「……はぁ?」
それは数枚の写真だった。
だが、それに写っていたものは――
―――――――――――――――
室内は騒然としていた。そして手の開いた刑事がどんどん入ってきて、すし詰め状態になっていた。
巡査が持ってきた写真には、バイクに乗って疾走する黒いミュータントの姿があった。
「これはどういうことだ?」
「何か狙っているのか?」
「こちらへの挑発かもしれん」
「どういうことなんでしょう……?」
様々な意見や疑問が飛び交う。
写真は交通課からの、街中に備わっている測定器が写した写真だった。
過剰な速度で走る車両を検知し、その姿を映したものだ。
見るからに、この黒いミュータントはバイクに乗って暴走行為を毎晩起こしているという……。
室内が狭くて仕方が無い。
何故? どうして? 何が目的なのか?
――いや、これは。
「チャンスだ」
俺のついこぼした言葉に、室内が一気に静寂し、視線を集めてしまった。
「あ、えと……」
「チャンスとはどういうことだね?」
大杉課長が聞いてきた。
「えっと、そのですね」
ほぼ思いつきでひらめいた事に、本当に提案してもいいのか迷った。
「はっきりしたまえ」
「……はい」
出てしまったものは仕方が無い、自分の考えを聞いてもらおう。
「これはチャンスです。今まで自分達はミュータント達との事件で常に後手をとらされてきました。何かの目的があるにしろ、挑発的行為による罠にしろ、これは自分達が初めてミュータントとの交戦に先手を打つことができます」
「ほう、それはどういった方法でかね?」
「見てください、写真にはその他にも暴走行為を働いている集団、つまりは暴走族を引き連れています。これだけ派手に動いているのならば、彼らのルートにバリケードを迅速に施し、待ち構える事ができるのではありませんか?」
「……ふむ」
俺の言葉に、大勢の刑事たちがなるほどと頷いた。
「自分達が初めて、ミュータントの動向に先手を打てる。そういった意味でのチャンスでは無いかと」
その後をどうするか。真では考えがまとまっていないが、考えている事だけは口に出した。
「ならば、そのセンでミュータントに先手を打ち、エルガイアで対応させよう」
誰かは分からないが、そんな声が飛んできた。
「えっ?」
エルガイア、拓真君を?
室内が再びざわめき、「そうだな」「そういうこともできるか」「なるほどな」などと呟きが聞こえる。
また、拓真君頼みなのだろうか?
この空気に疑問を感じる。
エルガイアを使う。その意見に若干ながら抵抗感を感じた。
なにより、周囲の意見がミュータントを倒すのはエルガイアだという認識が、酷く喉を詰まらせたように腑に落ちなかった。
誰も、自分達でミュータントを倒そうな度という意見が無かった。
「…………」
本当にそれでいいのか? 確かにエルガイアは大きな戦力だ。だが、警察の人間ではない。むしろ本当の姿は一般人の未成年だ。
誰か一人ぐらい、「俺達で戦ってミュータントを打倒しよう」という言葉が出ないのだろうか?
自分の発言はいささか軽率だったのだろうか? それとも、周囲は警察組織ではミュータントに対して手に負えないという認識が広がってしまっているのか?
誰でもいい、警察の威信にかけてとか、メンツだとか、どんな理由でもいい、ミュータントを俺達で倒そうという声は上がらないのか?
もう場の流れは、暴走行為を行っているミュータントに先手を打ち、エルガイアをぶつけようという流れになってしまっていた。
ここで、自分達で何とかしようというものなら、せっかく盛り上がった状況に水を差してしまう……。
拓真君。
彼がいなければ俺達は、ミュータントに対して本当に無力になってしまうのか?
だがもう周囲の認知は、拓真君任せになって話がまとまりつつある。
本当にそれでいいのだろうか?
「緊急会議を開こう」
大杉課長の提案で、迅速に会議が行われ、バイクに乗って暴走するミュータントの対抗策がまとまりつつあった。
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