ぞく

「チッ! クソが」

 カガロが毒づく。


 もう日が落ちきって夜中に差し掛かった頃。

 真上ではやたら汚い空気を出す鉄の移動物がひっきりなしに走っている。綺麗にカットされた岩。コンクリートと言うらしい。冷たく肌触りが良い。どうやって作ったんだこんなもの。


 しかもそれを『道』にして鉄の乗り物を走らせている。


 カガクギジュツ、とメッツラは言っていたが、どうやって作ったのかさっぱりわからねえ。


 にしても、エルガイア……全然弱いじゃないか。なんであんなのに先遣隊は負けたのか。アスラーダのヤツも結構ご執心だったようだが、あんなガキのどこが良いのか。


「ああ! イラつくぜまったく!」


 コンクリートとか言っていた石の壁を殴りつける。大きな衝撃音が響き渡り、コンクリートの壁に大きな蜘蛛の巣状のひびが入った。

 次は絶対にあのエルガイアをぼっこぼこにして踏みにじってやる。


 と、その時――


「……火の臭い」


 油か? 珍しい……いや、鉄の乗り物と似たような油の臭いがする。

 火の臭いに混じって凄く臭い。

 ――一応、人間に擬態しておくか。


 ゴキリゴキゴキ、グキリ。


「はぁ~あ」


 頭をガリガリと掻く。ムシャクシャしてたまらねえ。


 火の気配のする方向へ歩を進める。

 すると、開けた川辺で、円柱上の金属に薪をくべて炎を出している――人だかりがあった。


 白や黒のやたら丈の長い上着に……猛獣やこの国のカンジとか言う文字を刺繍している。みなバラバラに鈍器を持っていて、マスクで顔を隠している人間もいた。

「……ほう」


 高度に秩序が整った世界かと思えば、この世にもいたか。

 『賊』が――

 ちょいとからかってやるか。


「おいお前ら。ゴキゲンですかー?」

「ああぁん?」

「いやあすまんねえ。ちょいと肌寒くてよぉ。火に当たらせてもらえねえかな?」

「何だテメェは?」

「俺はカガロってんだ。よろしくな」

「今は集会中だ! うせろ!」

「集会? って事はどこを攻めるんだい?」

「東海道線を爆進する重大な計画だ!」

「ほう、トウカイドウ戦っていうのか。そりゃすげえな」

「分かったらうせろ! ダボが!」

「だぼ? なんだそれ?」

「いいからうせろっつってんだろ!」

「おいおい、さっきから物言いが偉そうだな。お兄さんちょっとカチンときちまったぜ……」

「んだと? やんのかああん?」

「これを見てもまだやる気があるのか?」


 ゴキリ、グキグキグキ、グキリ


 カガロが変身して元の姿に戻る。


「お……おお?」


 驚いた暴走族たちのほとんどが動揺した。

「これでどうだ? これでもやんのか? あぁ?」

「じょ、上等だコラァ!」


 暴走族の一人が止めに入る。

「そ、総長!」

「うるせえ黙ってろ! こんな姿がなんだってんだ! いいぜタイマンはってやろうじゃねえかよ!」


「……へえ、お前肝が座ってんな。気に入ったぜ、手加減して遊んでやる!」

「舐めんじゃねえ! 鬼の浜岡様がこの程度でビビッてたまるか!」

「ますます気に入ったぜ! せいぜい根性出しな!」

「行くぞオラァ!」


 ――約二時間弱後


「ひゃっほー! バイクって良いなぁ!」

 カガロが浜岡を後ろに乗せたまま、浜岡のバイクで車道を駆け抜ける。


「自分で走らなくてもこんなに速度が出るとか、最高じゃねえか!」


「ちょ、カガロさん。あんまり速度出さないでくださいよ。ポリ公に見つかっちまいます!」


「おら! どけどけえ!」


 カガロは機嫌良く蛇行しながら乗用車を避け、バイクで疾走する。


「おおう! さいっこうに気持ち良いぜえ!」

「うわああああああ!」

 暴走族を引き連れ、カガロはバイクで一晩中走り回った。

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