初恋

「はぁ……」


 学校の屋上で空を見上げながら、ため息をついて空をぼんやりと見上げる。

 ミザリィ……綺麗な人だった。

 またあの時間にあの場所で会えるだろうか?


「はぁ……」

「なにため息つきながらにやけた顔をしているんですか?」

「あん?」

 そういえばいたのだった。優子が。


「…………」

 しばらくのあいだ優子を眺めてから、また空を見上げた。

「はぁ」

 視界の端っこで優子が半眼になってこちらを見ているが。そんなものどうでもよかった。


 またミザリィに会いたい。

 会えるだろうか?

 次に会ったららどんな話をしようか?

 今は何をしているのかな?

 携帯電話とか持ってたりしないかな?

 綺麗な声だった。

 美人で笑うと可愛らしい顔だった。

 仕草も明らかに慎ましい女性って感じで素晴らしかった。

 あと胸も大きい。


「……はぁ」


 ずずず……じゅるじゅるじゅる……


 せっかくの良い気分に、不快な音を立てていたのは優子だった。

 紙パックのオレンジジュースをすすりながら、怪しむような目つきでこちらを睨んでいる。

 そしてふと思った。思ったことを口に出した。


「なあ、ゆっこ」

「なんですか?」

「お前、胸ってどれくらいあるの?」

「はぁ?」


 優子が慌てて胸元を両手で隠す。

「いきなり何を言ってるんですか! 教えませんよ!」

「ふーん」

 まあ、どうでもよかった。


「いきなりそんな事を聞いてきてなんですかその態度は!」

「別にー」

 まぁ、言わずもがな胸はミザリィのほうが圧倒的に大きいのは確かだった。


「先輩」

「なんだよ?」

「殴っていいですか?」

「勝手にすれば?」

「てぇいやぁ!」

 意外と重いストレートパンチが俺の左頬を直撃した。

 だが、首を傾ける程度の威力でしかなかった。


 ミザリィはこんな粗暴な事をしないし、こんな荒々しい声を立てない。

 痛みすらどこ吹く風のようだ。

 もう何度目のため息だろう。

 その数だけミザリィのことを思い出している気がしないでもない。


 優子が拳を引っ込めてこっちをじっと見てくる。

「本当に何があったんですか?」

「別にー」


 ほかの事なんてどうでもいい。

 ただ頭の中でミザリィのことを考えるだけで、ひたすらに胸がすくような気持ちになった。そして強い衝動か欲求のように、会いたいと思っている自分がいた。


「良い天気だなあ」

「あー、ほんとそうですね。先輩の頭の中が」


 今度は優子が、何かを諦めたようなため息を大きく吐いた。

 早く、ミザリィに会いたい。

 ひたすらに会いたい。 


「もう正直に言いますけど、今の先輩ちょっとキモいです……」

「あ、そ」

 そんなことどうでもいい。

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