優子―Yuuko―

「君達はここにいるんだ。絶対に出ちゃダメだからね」

 車の中に戻って、まだ震えがとまらなかった。

 大学病院で、医師が告げた言葉がよみがえる。


 『これはもう人間じゃない、他の生物だといっても過言ではありません』


 自分の右腕に爪を立てる。

 この腕が、この腕が俺をあんな化け物にするんだ。

 もう二の腕まで侵食されている。

 俺は人間でなくなるのか。

 あんなやつらの仲間入りするのか?


 怖い、怖い――


 がちがちと鳴る歯を押さえられない。

 いくら身体を丸めて腕で支えても、身体の震えが収まらない。

 もう、恐怖でまともに頭すら回らない中、ふわりと暖かいものに包まれた。

 顔を上げると、優子の顔があった。優しく抱きしめられていた。


「いいんですよ先輩。怖くても」


 優子の優しい声。


「むしろ怖くて当たり前です。人を食べちゃう化け物、私だって誰だって怖いです。怖いなら怖くていいんです。先輩は先輩ですから、私の好きな先輩には私がついています。先輩がたとえどんなふうになっても、優子は先輩のそばにいて、辛いときはいつもこうしてあげます。だから不安や怖いことを全部さらけだしてください。私がいつでもこうしてあげますから」


 そんな……

 そんなことを言われたら。

 俺は……

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