対話―Contact3―

 本当はただの勘だけによるあてずっぽうだった。

 だがそれが大当たりしたらしい。

 嬉しくもない当たりだったが。


「貴様らは何者だ?」

「言っただろう。アムタウ族と」


「何故人間を襲う……いや、何故人間を食べた。行方不明になった人たちをどこへやった?」


「問いかけが多いな」


「まあな。何しろお前達のことなどまったく知らない。おそらくはとんでもなく大昔の生物だろうと踏んでいる。貴様がエルガイアと言っている者の右腕と一緒に眠っていたのだろう、と」


「その通りだ人間よ。少しは知恵の回るものと対話ができて、少々興味がわいた。話してやろう」


 拳銃は効かない。だが構えておく。先ほど眼球を狙った銃弾をかわしたように、硬質の皮膚と、軟質の部分があるはずだ。構えは解かない。


「確かに我らはエルガイアによって封印された。いく星霜、どれほどの時が立ったのか、自分達でも分からぬほどにな」


「何故人間を襲う?」

「ここだ」

 アスラーダは自分の頭を指先でこつこつと叩いた。

「人間もそうであろう? 自分では作れない栄養素を果実や家畜から摂取するように、我々にも必要な栄養素がある……それは人間の頭、脳みその中にあるのだ。我々は人間を食べねば生きていけぬのだよ」


「行方不明になっている人間達が大勢いる。その人々もお前達が食べつくしたのか?」


「さらったのは私の仲間だ。そしてさらった人間は我らが女王の供物となった。人間も子を生むだろう? 我らも子を生む。そしてわれらが繁殖するに、その高い能力を有しているものが女王であり、さらった人間共は女王へと捧げられた」


 昨晩、金色の目をした拓真少年の言葉を思い出す。


 『今再び人類の天敵が復活した』


 こいつらが、人間の天敵に間違いない。


「次は私の番だ」


 アスラーダがこちらに問いかけてきた。


「貴様は、この時代の戦士か?」


「……違う」


「では何者だ? 何故武器を持っている?」

「おそらくは、お前達が思っている戦士とは違う。俺達は国が立てた法律の下、それを犯す者を捕らえるためにいる。警察と言うものだ」

「そちらの人間側の自警団。と言ったところか」

「そうなるな」


「ならば戦士はどこにいる?」

「そんなものはいない」


「何故だ? 人間は人間を支配し、他族と戦い領地を増やし、戦って戦って戦い抜いて、繁栄する種族だったはず。人間の戦士はどこに行った!」


「お前が思っている戦士は、もうこの世にはいない。この世界は人間が平和と秩序を守り、この時代に栄えている」


 意外だったのか、アスラーダが叫んだ。


「そんな馬鹿な事があってたまるか! 人間は人間同士戦って繁栄するものだったはずだ!」


「そんな時代はもうとっくに終わった! 人間は種族や生まれた地域によって、国によって境界線を敷き、それを守り、国の代表同士が政治を行い、より良い社会にしていこうと日々努力している! 戦い争い自己を繁栄させる時代はとうに終わったんだ!」


「ありえぬ!」


「だがありえているんだ!」

 慎重に拳銃のグリップを握りなおし、うろたえるアスラーダを拳銃越しに見た。

「この世界は、確かにまだ一部分では争いが続いているが、世界のほとんどは争いを起こさない! お前達が眠っている間に時は流れ、人間は成長し、平和と秩序の世界へとこの世を作り変えたんだ! お前の思っている戦士などもうどこにもいない!」


「……そんな馬鹿な」

「お前がどこからやってきたのかは知らないが、この日本に来る道中に、自分自身で見ただろう。平和に暮らす人々の姿を」


「…………」


「それが今の世界の姿だ!」


「…………」


 アスラーダの拳が、震えていた。

「……ありえぬ」


 アスラーダが小声で否定した。

「そんな事があってたまるか! 人間よ! 戦士を出せ!」

「だからそんな時代はとうに終わっているんだ! 分かれ!」

「何が秩序だ平和だ! 争ってこその人間、人間が人間を支配しての人間であり、繁栄の証として誇っていたはずだ! 我らが眠っている間に! 人間がその闘争本能を御するなどありえぬ!」


「ありえているんだよ。人間同士の争いは、とっくに終わっているんだ」

 まるで頭でも強く打たれたかのように、アスラーダが片手で頭を抑えてうめいた。


「馬鹿な……ありえぬ」

 太古の戦士。アスラーダ。

 その姿はどこか哀れな姿に見えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る