身体―Body―
「うーむ」
診察室で医師が難しい顔をした。なんとなくだが、どう説明していいのか分からないような……そんな空気をはらんだ声音だった。
医師が次の声を発するまで、数秒の沈黙が流れた。
小さいため息をついて、ようやく医師は重い口をあけた。
「まずこの右腕を見てください」
ポインターで医師が俺のレントゲン写真の右腕を丸く囲んだ。
「まず神経系ですが、大小あわせて常人の六倍か七倍は腕に張り巡らされています」
「…………」
この右腕は只者じゃないと分かってはいたものの、正直聞くのが不安だった。
「そして筋繊維……筋肉が異常発達しています。見た目は変わりませんが、内部の筋肉の質は十倍以上の強靭な筋肉になっており、さらに骨。骨密度はほぼ百パーセント……それが指先から二の腕の半ばまでそのような状態になっています。はっきり良いますと……これはもう人間じゃない、他の生物だといっても過言ではありません」
木場さんが言う。
「肘から指先の間だけじゃないんですか? 二の腕まで?」
「ええ、二の腕の半ばまでこのような状態になっています」
無意識に、左手で右腕を掴んでいた。
――人間じゃない。しかも、右腕は俺の体を二の腕の半ばまで侵食している。
ひょっとして、このまま俺はこの正体不明の右腕に体中を侵食されて、
あの化け物みたいに――
「拓真君? 大丈夫、」
はっとなってわれに返る、木場さんが横で黙りこくっていた俺の顔をのぞいていた。
舘山寺さんが医師に尋ねた。
「命に別状は?」
「特に今のところはありません。ただ、そちらの言うとおり本当は肘から指先だったはずが、二の腕まで広がっていくということは、今後も体がこのような状態になるでしょう……そうなった時、どうなるかは正直分かりません。このような、体の一部分に異常発達が起こり、さらに広がっていけば……たとえば肺や心臓、胃腸などの内臓器官に何かしらの影響が出るかもしれません。できれば定期的にこちらに来て、進行具合を見させていただきたいところです」
最後に医師は、「今のところ本人に異常や違和感が感じられないならば、今はまだ大丈夫でしょう」と告げた。
俺は右腕をじっと見つめた。
ただの右腕にしか見えない。
だが、この中身は正体不明のブラックボックスのようなものが詰まっている。
そして、侵食が進んでいくということは、
俺は人間とかけ離れていく、もしかしたらあの怪物のようになるのかもしれない。
そうなのか?
右腕は何も言わず、ただそこに、俺の体にあるだけだった。
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