遭遇―Contact2―

 ――カシャ


「あ、起きちゃいました?」 

「うん?」


 目を覚ます、とそこはほとんど暗がりで周りがよく見えなかった。

 小声で言ってくる女の子。


 ぼんやりした頭でよく見ると、倉橋優子だった。


「お前、なんでここにいるの?」

 すると優子は、人差し指を出して問題を出した。

「さて、私は何でここにいるでしょーか?」

「知るかよ」


 とりあえず上半身だけでも起き上がる。読みかけだった小説、ドグラ・マグラが胸から落ちた。


「ヒント1。私は吹奏楽の部活動を終えたころに、散歩部の人たちがちょうど帰ってくるところでした、その中をよく探しても、先輩の姿がありませんでした」

「んで? 次のヒントは?」

「ちょっとは考えてくださいよ~」

「やだね」


「むー。じゃあヒントその2。自転車置き場にはまだ先輩の自転車が残っていました」


「それで?」


「もうほとんど答えを言ったようなものなんですけどー」

「遠まわしでめんどいんだよ」


「はい、じゃあ答えます。先輩が散歩部の部活動から帰ってきていない。ということは、散歩部がよく行く公園に、まだ先輩がいるということ。そして以前、同じクラスの散歩部の人が言ってました。部活中に昼寝をしてたらそのままほっとかれてしまった、と。だから先輩もきっとそーなんじゃないかなって、思ったわけですよ。それで公園に来て、明らかに寝られそうな場所、このアスレチック広場を探して、先輩を見つけ出したしだいであります」


「あー、そうかい。長々と説明どうも」

「はい、私がいる真相はこのとおりです」

「はいはい」


 本を腹にかけていたブレザーのポケットの中にしまうと、携帯電話を眺めてニヤニヤする優子が見えた。


「何やってんだ?」

「えへへー」


 優子が携帯電話の画面をこちらに向けて見せた。

「先輩の寝顔、ばっちりいただきましたー」


「なにぃ!」


 確かに携帯電話の画面には俺の寝ている顔が映っていた。

「消せ!」

「嫌ですー、待ち受けの画面にしておきます」

「よこせ! というか返せ! 消せよ!」


 優子から携帯電話と奪おうをして優子へ手を伸ばす。

 抵抗する優子だが、揉み合いになり。


「あん、先輩……」


 気がつけば俺は優子を押し倒しているような状態になっていた。


「こんな、ところで……」


 優子の顔が真っ赤になっていた。

「うわっ!」


 自分でもなかなかでないと思う悲鳴を上げて、優子から離れた。


「いやーん! 私今いやらしい事考えちゃったやだー」

 携帯電話を両手で胸に握り、縮こまってころころと行ったり来たりと転がる優子。

 その姿を見て力が抜けるように肩を落とした。失態をさらしてしまった。

 相手を好きになるという選択肢があるのなら、それと同時にその好きを受け入れるかどうかを選択する事だってあるはずだ。


 まあ、こんな事口に出したら、彼女が欲しい男子の面々から贅沢だと、ブーイングが飛んできそうだから声に出さないけれども……。


 少し寒いな。ブレザーを着る。

「ゆっこ、帰るぞ」

「あ、はーい」

 優子が起き上がって携帯電話をポケットの中に入れた。

「…………」

 どーにかして俺の寝顔画像を消してやりたいが、たぶん無理かもしれない。

 正直忌々しい。


 ウーウーウーウーッ――


 パトカーのサイレン音が聞こえてきた。


「なんだ?」


 近くで痴漢でも出たのか?

 学校の近くには、見たことはないが痴漢がちょくちょく出るらしい。たとえば下半身を露出させた原付バイクに乗ったおっさんとか、かなりやばい女装をした男性とかが出るらしい。


 もしくはまったく別のヤバイ事件とかかな?

 どんどんサイレン音が大きくなって……近づいてくる。


「何ですかね?」


 優子が気になって、アスレチックの小部屋から外へ顔を出す。

 自分も気になって優子の隣に並び、木造のアスレチックから外を眺めた。


 すると、キキーッ! という激しくタイヤを滑らせた音を出しながら蛇行運転している車がこちらにやってきた。タイル上の地面から芝生に乗り上げ、車のタイヤは芝生を削るように飛ばしながら暴れまわっている。


 さらに、車の上では全身黒い……コスプレか? 何か妙な格好をした男らしき人間がしがみついていた。


 どうやら車の上に乗っているやつを、振り落としたいようにも見える。

 車が一回転するほど車体を振り、ようやく車の上にしがみついていた人物が吹き飛ばされるようにこちらに飛んでくる。


 ダンッ!


 目の前にある木造の壁に妙な人物が叩きつけられてはっとなって気がつく。

「ここから離れるぞ!」

「はい! 先輩」

 

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