考察―Think―
「では池上さん、引き続き西嶋の部屋の鑑識の指示をお願いします。こっちも引き続き西嶋を探します」
携帯電話を切る。
ちょうど、木場がコンビニエンスストアから出てきて車の運転席に座った。
「ただいまっす」
差し出してきた焼肉入りのおにぎりと、ミルクティーのペットボトルを受け取る。
おにぎりの封をあけ、ひとかじりしてミルクティーで流し込む。
「舘山寺さん、よくおにぎりを甘いもので食べれますね……」
木場が袋に入った惣菜パン……カレーパンを出して言ってくる。
「うるさい、さっさと出せ」
「ふぁいふぁい」
カレーパンを口に咥えながら返事をして、木場が車のキーを回してエンジンをかける。コンビニエンスストアの駐車場から車が動き出し、公道に出る。
食べながらの運転のためか、お互い何もしゃべることなく外の景色から西嶋がいないか探す。
と言っても、顔を覚えているのは俺しかいないわけで、木場はカレーパンを片手に通常よりもやや速度を落として運転しているだけだった。
西嶋が携帯ごしで言っていたこと。
――俺が、俺が持ってきてしまったから……やつらが追ってきたんだ……やつらが、やつらがこの〈腕〉を狙ってやってくる、やってきたんだ――
持ってきてしまった物とはおそらく、あのミイラの右腕の事だろう。
そして『やつら』とは?
やつらと言ったからには犯人は複数という事で堅いだろう。
犯人は外国からやってきた? 日本人ではない?
それが何故、猟奇殺人と多数の行方不明者を出しているのだろうか?
現地の過激な民族? テロリスト? 違うな。
首の無い死体……傷口にはまるで頭を丸かじりされたような傷跡が首に残っていた。
その西嶋を追っている何者か達が、猛獣を連れていて、この街の人々をエサにしている?
――そのセンも違うな。空路だろうが海路だろうが、そんな猛獣を日本にペット感覚で持ってこられるわけが無い。
じゃあ死体のあの有様は何なのか?
食人習慣でも持っている民族? あの西嶋の部屋にあった遺跡の写真……現地の人間達が遺跡荒らしだと西嶋たちを勘違いし、持ち去ったミイラの右腕を追ってやってきた。そしてその現地の民族は人間を食べる習慣がある。
――これも違うな。現実味すら無い。
凶器……まるで齧られたかのような傷口を作る凶器などはあっただろうか?
チェーンソー、散弾銃……のこぎり……。
鑑識からは凶器の特定もできていない。
一向に鑑識班からの確固たる結果が戻ってきていない。
傷口や遺体の服からは涎らしき粘液が付着していた……やはり『食べた』という形跡にしか見えない。
――人間じゃない?
猛獣でも人間でもない。謎の生物?
――馬鹿らしい。
特撮のヒーロードラマでもあるまいし。まさか人間を食べる怪物怪人などいるわけが無い。
現実である以上、あの人間を食べたように見せた殺害方法と、西嶋を追っている何者か達には因果関係がある……そう考えたほうが一般的だ。きっと現地人の特異的な風習か、殺害理念の下だろう……それが一般的な流れだ。
手にもてあましていたミルクティーのペットボトルを一気飲みする。
それから膝に置いていたコンビニエンスストアの袋を探り――
「おい、木場」
「なんすか?」
「ミルクティーは二本買ってこいと言ったはずだったんだがな」
「あー……すいません、またどこかに寄ります?」
あはははは、と苦笑しながら言ってくる木場。
「いい」
木場にきっぱりと言って、車の窓ガラス越しに西嶋の面影を思い出しながら、行きかう人々の流れを眺めた。
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