進展―Incident2―
ぴりりりり……ぴりりりりり……
「舘山寺さん、鳴ってますよ」
「分かっている」
木場に言われなくても、すでに内ポケットの中にある携帯電話に手を伸ばしていた。だが違った。仕事用の携帯電話のほうではない。
「何だ……」
デスクの一番上の引き出しを開けて、プライベート用の携帯電話を取り出した。
鳴っていたのはこちらのほうだった。
携帯電話の画面表示には。『西嶋一彦』の名前が映っていた。
西嶋一彦――高校の頃の友人だ。確か最後に会ったのは成人式の後の同窓会の時だった。西嶋は大学へ進み、考古学の分野にいるとその時に聞いた。
木場の視線に軽く咳払いをし、椅子を動かして彼に背を向けるとプライベート用の
携帯電話の着信を受け取った。
「よう、久しぶりだな西嶋」
……返事がこない。
「西嶋?」
耳を澄まして返事を待っていると、荒い呼吸が聞こえてきた。
『舘山寺か?』
「ああ、そうだ――」
『助けてくれ』
ぼそぼそとした、まるで携帯電話の奥では身を潜めているような小声が聞こえてきた。
『お前いま、刑事をやってるんだったよな?』
「ああ、そうだが……何か被害にあったのならこっちへ来て被害届を」
『それじゃダメなんだ!』
突然の叫びに耳がキーンとなる。
『助けてくれ! 舘山寺! 頼む!』
「だから、そういうのは被害届を出してくれ。俺は今、事件の捜査中なんだ」
何か被害にでもあったのか、それとも誰かに狙われているのか追われているのか……とにかく個人で警察の権限を振るうわけにはいかない。物事には手順と言うものがある。
『今の、連続殺人事件と行方不明者の事件だろ?』
西嶋がきっぱりと言ってきた。
「……おまえ、何か知っているのか?」
『俺の……俺のせいだ……』
「どういう事だ西嶋、落ち着いてゆっくり話せ、聞いてやるから」
『俺が、俺が持ってきてしまったから……やつらが追ってきたんだ……やつらが、やつらがこの〈腕〉を狙ってやってくる、やってきたんだ』
携帯を耳に当てつつ、デスクにあったメモ用紙とボールペンを取る。
「お前今どこにいる? 自宅か?」
『ああ』
「住所は?」
西嶋の自宅の住所をメモに取る。
『すぐに来てくれるか?』
「ああ、すぐに行く」
肩と耳で携帯をはさんで立ち上がり、椅子の背もたれにかけていた背広に手をかけて腕を通す。
木場のほうも察したのか、目が合った瞬間同じように立ち上がって車のキーをこちらに見せた。準備OKというサインだ。
すると、携帯電話の向こうからガラスの割れる音がした。
『うわああああああああ――』
「西嶋! どうした!」
『くっ来るな! 助けてくれ舘山寺!』
どうやら襲われているようだ。がしゃんがしゃんばきんばきんという破砕音がして、西嶋の悲鳴が聞こえてくる。
「西嶋、俺たちが行くまで持ちこたえろ!」
携帯を切り木場のほうへ向く。
「木場! 至急車を回せ!」
「はい!」
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