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 夢を見ていた。

 そう、私は今夢を見ているのだと自覚している。


 見る夢は様々だ。

 私が今生きている世界ではない、他の世界の夢。

 例えば……。

 どこかの草原に立っている夢。

 どこかの森の前で歩いている夢。

 木のみになった林檎をかじったり、冷たい川の水に足をつけている夢だったり。


 それらはよくバリエーションに富んでいて、作為的には選べない。


 内容は至極ありふれたものばかり。

 大した事のない、ただの日常の光景ばかり。

 けれど私はその夢の中では、別人になっていた。


 長い白い髪に、長い灰色のドレス。

 傍らには、白い鳥の友人を連れて歩いていて。


 時に知らない思い出を語らいながら、時に知らない誰かと話しながら。


 その私は、この私の知らない人生を送っている。


 それは優しい世界の夢だった。

 それはそれはとても暖かい日常の夢だった。


 けれど、そんな毎日はある日を境に終わりを告げてしまう。


 この私は知っている。

 でも夢の中の私は、まだその事を知らない。


 ただいつまでも、定められた運命の中で幸せそうに笑っていた。



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