04 1/8(水曜) 怪異調査



 山の中


 学校終わりの時間。

 本日、未来達は基地ではなく山の中にいた。

 

 いつもは基地でただ暇を持て余して集まり、だべったり宿題をしたりするだけの場所なのだが、たまに目的が発生したりすると外に出る事もあるのだ。


 横では茉莉がうきうきとした足取りではしゃいぎながら歩いている。


茉莉「お出かけ、お出かけー」

未来「はしゃぎすぎて転ぶなよ」

茉莉「転ばないよー。ひゃうっ」


 伏線回収するの早いな。

 今日はバンドエードは三枚までしかないんだ。あんまり傷を増やすなよ。


茉莉「うぅ、未来ー」


 泣きべそをかいてる幼なじみにさっそく一枚目のバンドエードを恵んでやる。

 こいつがこんなだからいつまで経っても俺のポケットの中から。携帯消毒薬だの包帯だのが消えないんだ。


 そもそも、と未来は昨日は基地に顔を出さなかったメンバーの一人。こんな所までやってくる元凶になった、まどかに理由を尋ねる。まだ教えてもらったないのだ。


未来「で、いい加減理由を押しててくれてもいいだろ」

円「そうね。ここまで来たら、やっぱ止めたなんて言って帰ろうとは思わないだろうし。実はね、学校の友人の課題として怪異を調査する事になったの、どうせ暇だったんだし大きな宿題はないんでしょ? いいいでしょ? 手伝ってよ」


 そんな事の為に引っ張った来られたのか。


 実際に現地に引っ張って来てから理由を聞かせるところが、悪知恵の侮れない働かせ方だ。


 染めたショートの白銀の髪の、動きやすような恰好をした円は悪びれる様子が全くない。

 年齢は桐谷先輩と同じだ。だが未来は先輩とも呼ばないしさん付けもしない。丁寧語もなしだ。こんな性格だから。


 その説明に、反応するのは、小学生二人。


有栖「何それ、そんな事の為に小学生のあたし達まで引っ張って来たの。もう虫が飛んでるし、やになっちゃう」

雪高「有栖、我が儘言うなよ。俺だって、来たくなかったんだよ」


 未来の目の前には、昨日は基地にいなかった、残りのメンバーのニ人がいる。


 小学生である有栖と雪高だ。

 片側で髪をくくっている長髪の、流行のお洒落に敏感な有栖は、動きにくそうな袖の長い服を着こんで周囲を見回しながら顔をしかめている。見た目には整った、美人ともいえる顔つきなのだが、性格がキツいので、近寄りたい雰囲気を常備纏わせている。それを言えば、他のメンバーからは未来も似たようなものだと言われたが。


 何の加工も施されていない短い黒い髪をした少年、雪高の方は、フード付きのジャケットを着こんで動くのにも虫にも不便してなさそうだ。体力もそれなりにあるので、不満等は付き合わされた事意外に出ていない。文句は言いつつも面倒見は良く、有栖の保護者的な役割で他社との緩衝材になっている。未来と茉莉の関係に似たようなものだ。


円「もう、そんな事言わないでよ。やる気ないけど、頑張って来たんだから」

有栖「何よ。本人がやる気ないとか言わないでよ。こっちまでテンション下がってくんじゃない」

雪高「円姉ちゃんだから仕方ないよ、それは」


 姉後肌で、人の面倒ばかり見ている円は、しょっちゅう人の頼みごとを聞いているらしく、こなせなかった分をよく未来達にまで押し付けてくるのだった。


 傍に立つ茉莉は、だが押し付けられたとは思っていないようで、にこにこしながら周囲に生えている珍しい草花なんかに気を取られている。


桐谷「ん、茉莉……気を付けるといい。山の中は足場が悪い、木の根で足を取られて転んだりしないように注意しなければ」

茉莉「はーい」


 返事はしてるがちゃんと聞いているんだろうか。後でまた、転んで泣きついてくる事にならなければいいんだが。


 そんな風にしていると、茉莉が何かを取り出して有栖に分けてやってた。

 良い匂いがする。


茉莉「あ、そうだ皆。あのね、大変だからお塩のお菓子作って来たよ。いる時は言ってねー。汗を流して脱水しょうじょーになるのは危険だって先生が言ってたから。未来もいるー? 円さんみたいに上手くは作れなかったけどー」


 言いながら一つもらって口に放り込む。美味かった。だが、相手は茉莉なので、自力の産物ではないだろう。これはあれだ。教科書とかに作り方とか乗っていた奴だ。

 

茉莉「どうかな、どうかなー。美味しい?」

未来「軽量さえ守れば、誰でも作れる良い見本だな」

茉莉「……いじわるー」


 そんなやり取りをすると周囲の人間がやれやれと言った風に顔をみあわせて無言で意思を通じ合わせている、未来の周りで時折り良く起こる現象だ。理由は不明。発生時期も不明。聞いても自分で考えろと突き放される事が大体だ。


円「……しっかし、頼まれといてなんだけど、マニアックな課題の調査内容だこと。神隠しの怪異ねぇ。ほんとにそんな事が起こるのかしら」

未来「起こったら問題だろう」


 自分の引き受けた依頼内容だと言うのに、とぼけた事を言っている円に思わず言葉が出る。


円「あらま、アンタって夢がないわね。怪異調査員を名乗るなんて十年早いわよ」


 夢のある話じゃなかっただろ。後、いつそんな怪しげな人間にされたんんだ、俺達は。


円「茉莉ちゃーん、ちょっとお願いできる。検索条件は、人が消える場所」

茉莉「んー、円さん探し物? いいよー」


 周囲を見回して森しかない事を確認した円は、茉莉を手招きしながら呼ぶ。

 茉莉は、その手の中に、どこからともなく光る羅針盤を出現させて見せた。


 それは、茉莉がずっと昔からできる特殊能力だった。

 探し物がどこにあるか、分かるという、そんな能力。


 基地のメンバーで、他にでは、有栖が茉莉のような、常識では説明できない能力を持っていたりする。


 羅針盤の上で、盤上に書かれた方角に光る矢印が出現。

 その矢印が示す方向に探し物は大抵ある。

 未来達はそれにならって進んで行く。



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