12 帰還
その後でおまけのように世界滅亡を軽く阻止した後、未来達は再び魔法陣をこしらえて元の世界へと戻ってきていた。
大道寺三座辺りは目的があるので、まだ残っているようだが、見た目に寄らず中身はしたたかな人間だ。その内達成して帰って来るだろう。それでも何ともならなかった場合は、恩もあるので出来る事で手を貸すのもやぶさかではないが。
学校の方はありがたい停学にも退学にもならなかった。集団神隠しの一部として認定したからだ。面倒な事情聴取やら健康検査やら受けた後は、茉莉達も普通に元の学校へ通えるようになっていた。
そんな風に未来達は、いつか過去には、苦しいほどに切望し届かない事に絶望していた景色が、今日となって明日となって目の前にやってきたわけだが、日常はそう劇的に変わったりはしないものだ。
相変わらず、学校帰りに基地に寄って、茉莉の面倒を見て、たまに円のもってくる頼み事に振り回されて、桐谷先輩の手伝いをして、雪高や有栖の周囲にいる人間を追っ払ったり、逆に近づけたりして、そうやって時は過ぎていく。
そうしてようやく未来達は、そもそもの始まりであった元の時間まで戻って来たのだ。
高校二年となった学年の冬、中学二年になった茉莉はいつもの様に基地へ来て、お菓子にぱくついたり、宿題をやったり、たまに休憩して二次元のイラストを描いたりしている。
その頭には、この世界に帰還してすぐに買ってやった緑のヘアバンドがついていた。
背は伸びないし、ありとあらゆる場所の成長はゆっくりだし、中学二年とは思えないほどの幼い顔立ちをしているが、おそらく以前の世界の茉莉と全く同じなのだろう。
違う所と言えば、有栖に弟子入りして少しだけ洒落っ気がでてきたくらいか。
茉莉「みらいみらいー、今度どっかでかけよ。でーとしよでーと!」
未来「出かけるのはいいけど、デートじゃないだろ」
基地ではいつもの部屋で、いつものメンバーが集まっている。
部屋を縦断するような長い机の上に教科書類を広げて宿題と格闘していた茉莉がそんなふうに未来を誘ってきた。
隣に座っている未来の膝の上に身を乗り出して、抱きついてくる。
茉莉「えー、でも……アイラちゃんが女の子と男の子が休みの日に一緒に出掛けたらデートになるって言ってたよ?」
それだったら、雪高はどうなるんだ。
あいつだって一緒に来る時もあるじゃないか。
茉莉「んー、雪君は相手がいるから、そう言う人は例外らしいよー」
あの少女はまた茉莉に要らん事を教えたな。
茉莉「デートに行って、今日は帰りたくないのって言って、男の人の部屋に止まるのが最後の……しきたり?」
未来「……」
あんまりお節介が過ぎるあんまりようだと、茉莉のネットを遮断させるぞ。
茉莉「でも普通だよー。いつも勉強教えてもらうために未来の家に止まってるもんー」
と、そんな発言をすれば、今まで有栖と話していた雪高が茉莉の顔を見る。
雪高「え、茉莉姉ちゃんまだ未来兄ちゃんのトコに止まってたのか?」
有栖「よしなさい、茉莉。今は良くても男は野獣なんだから、いつか襲われるわよ」
茉莉「えー、未来乱暴な事するの? やだよー、暴力反対です」
寄ってたかってそいつに変な事を教えるんじゃない。
最近はいつもこうだ。茉莉が未来に対して何かするたび、言う度にそんな風にメンバーがちょっかいを入れてくる。うっとおしい。
円「気づかないのはアンタが鈍いからでしょーが」
桐谷「む、今日も通常営業だな」
円も先輩もたまには、控えめにしてくれると助かるんですが。
茉莉「えー、あたし変なこと教えられてるの? どこがー? 何がー? ねー」
分かってないような茉莉に説明するのが面倒くさくて、雪高に丸投げしてからその場を離れる。
離れたところで一人黙々と作業していた桐谷先輩の方は、もう宿題やらなにやらは終わらせていたようで、会社の方の用事をかづけている最中だった。
未来「先輩、本の方はどうなってるんですか?」
桐谷「ん? 更新はない。大丈夫さ。きっと君の物語はあの時に終わったんだよ」
未来「そうですか」
それでなくとも時々は不安になるのだ、また茉莉がいなくなるような事が起きるのではないかと。失うかもしれない恐怖が、別の世界の消えてしまったはずの思いが、胸を締め付けてくるのだ。
いつかあの日々の痛みを忘れられる日が来るのだろうか。
茉莉「未来……」
そんな風に思っていると、いつのまにか茉莉がこちらに近づいてきていた。
茉莉「何があっても大丈夫だよ。だって、未来は一人じゃないから。みんな一緒にここに来れたんだから、怖がる必要なんてどこにもないんだよ」
いつもする様にこちらに抱き着いてきて、動物みたいにぐりぐりと顔をこすりつける。
茉莉「一人ぼっちなんかにはさせないよ。あたしはもうどこにもいなくなったりしないから。皆もずっと……」
忘れられる日が……。
いや、違うな。抱えて生きていける日が、だ。
辛い思いも悲しい思いも、絶望も全部今という日々を……、過去から見た幸せないつかの時間を掴むために必要な物だった。
だったら失くしてしまうのは正しい事なんかじゃない。
忘れずに大事に持っていこう。
自分の背よりもずいぶん低い位置にある頭を撫でる。
栗色の、小さな幼なじみの頭を。
未来「今度の休日は久々に隣町に行くか」
茉莉「うん! あ、みんなで行こうよ。久々にアイラちゃんと会ってお話ししたいな。後はねー、……」
創作ログ「1/7~1/11 ⇒⇒⇒⇒⇒」 仲仁へび(旧:離久) @howaito3032
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます