07 祭り
俺はただ、茉莉が助けられればそれで良かったのに、最初に何も分からなかった頃と比べれば、ずいぶん話が大きくなったものだなと思う。
世界を救う手だては考えてある。
その世界の現状を一言で表せば、頻発するエネルギー不足(生命力ともいいかえる事が出来る)に断続的に曝されている状態だった。
魔法……ではなく超能力に還元できるエネルギー(命の源)が、周期的に不足するようになって、それが様々な所に影響を及ぼし、生物の異常化を引き起こしているのだ。
それを解決するために、前世でエマが作り出そうとしていた永久機関を、桐谷先輩と共に作り上げるのがゴールだった。
問題なのは、エマがいた研究施設の技術が、その世界の一般的な技術水準をはるかに上回る事で、壊れた場合は誰も治す事が出来ないのだが、まあ数回分でも持てば、必死な人間が頑張って技術の方が追いついてくいてるだろう。
未来達は完璧な人間ではないのだ。
自分の手の届く事態や人々を守れれば散り合えずそれでいい。
そのな風に作業漬けになる毎日なのだが、その日は息抜きも兼ねて幼なじみと共に祭りを見て周る日だった。
茉莉「わー、凄いよ未来。わー。ねー、見て見て、わー、わー」
さっきから同じような事しか言ってないな。
向こうの祭りとはまた違う異界の祭りの様子が珍しいらしい幼なじみは、未来の袖を引っ張りながらあっちへこっちへと大忙しだ。
出店を回ったり、見世物を見たり、たまに面倒に巻き込まれて、はぐれた子供の親を探したり、逆にはぐれそうになったり。
アイラ「ふふ、茉莉ちゃんとっても楽しそうですね」
同じく祭りを見て周っていたらしいアイラが途中からやって来て、一緒に周る様になった。
本名は別にあるのだが、茉莉も未来もあだ名で呼ぶのが慣れてしまっているのでずっとそのままだ。
アイラ「でも、他の人とも一緒に周ってあげた方がいいと思いますよ。さっき会った桐谷さんや円さんも未来さんと一緒に周りたがってましたから」
別に子供じゃないんだから、好き勝手に見てればいいだろう。
アイラ「一緒に周ってあげた方がいいと思うんだけどなぁ……。皆で一緒に見た方が楽しいと思いますし」
茉莉みたいな事言うんだな。
アイラ「友達ですから。……それともやっぱりまだ距離を置いてるんですか」
未来「……」
間接的に本で読んで知ってはいたが人柄は知ってるが、この少女も中々侮れない洞察力を持っている。
虫も殺せなさそうな見た目をしている割には戦闘力があり、容赦なく炎で敵となった人間を燃やし尽くすような人間だからな。……茉莉といいこの少女といい、何でそんな荒事に向いてなさそうな奴ばかりに力があるんだ。
アイラ「人を信じるを事ってきっと難しいと思います。でも、相手が信じてくれているなら、たとえ傷ついたとしてもその気持ちに報いてあげたいって私は思うんです」
未来「……そのせいで、周りにいる人間が傷ついてもか」
アイラ「未来さんが本当に気にしてるのは、茉莉ちゃんの事ですか?」
どうだろう。
茉莉の事は心配だ。迂闊な事をしてあいつを危険な目にあわせたくない。
特異点がずれた事で、元の世界で起こる詐欺事件だとか誘拐事件だとかには関わらなくなったかもしれないが、まだ何も解決していないのだから、油断できないと言うのもある。だが本当にそれが理由なのだろうか。
アイラ「信じて欲しくない人はこんな所まで来ないと思います。私だって色々怖いけど、皆がいるから前に進めるし、危ない事だって多少はできますから」
未来「……」
そうだ、要するに未来の気持ちの問題なのだ。
未来が信じる事を恐れている。あの時みたいに孤立する事が起きないようにと。
ただそれだけの話なのだろう。
だが、それだけの事が恐ろしくてたまらない。
表面上でも仲の良さを取り繕えるなら、そうしていたいと思うのは社会を生きる人として当然のはず。
アイラ「一人で戦おうとしないでください。お節介かもしれないけど、時々すごく辛そうに見えるから」
本当にお節介だな。
と、別の場所を回っていたらしい、小学生達がアイラの名前を呼びながら集まって来る。
女子も男子も違う学年らしい者もいる。大人気だ。
だがそんな性格だったから、滅びる運命だったこの世界でも、そんな少女が生き残れたのかもしれない。多くの信頼できる人間達に助けられて。
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