08 指切りの約束
異界後に満ちているエネルギー循環に狂いが生じている。このまま放っておけば世界はとんでもない事になってしまうだろう。それこそ化け物が跋扈するような世界に。
それを何とか解決し、元の世界に帰る為に、未来達は奔走していたのだが……。
その生きぬきで出かけた祭りの最中、茉莉が攫われかけた。
出店の多く連なる人通りの多い場所で、人ごみに呑まれている内に見失って、その時の事だった。指示の相手はたぶん氷裏。
帰ってから長期戦で解決しようと覚悟していたのだが、まさか向こうが追いかけてこちらに来るとは予想外だ。
それだけ茉莉から得られる研究成果にご執心とは。ストーカーだな。
だから茉莉が危険な目に遭うのを利用して、囮として泳がせて、相手の寝城を叩くという作戦が話で上がった。
異世界を救うこと自体ははっきり言って大した事ない。
このまま順当に行けば何とかなるだろうと思っている。
こちらには桐谷先輩もいるし、エマの残した研究の成果もあるのだから。
実を言えば、世界よりも茉莉の方が難易度が高かった。
連中は放っておいては駄目だ。
数多の世界で手を変え品を変えこちらを翻弄してきた連中が、次も同じ方法で来るとは思えない。
姿を見かけたのならば、余裕があるうちに、動けるうちに、味方が大勢いるうちに叩くべきだろう。
だが、未来個人としては、茉莉を囮にするような作戦には同意しかねていた。
未来「本当にやるつもりなのか、茉莉」
白亜の城の内部にあるの、花が咲き乱れる中庭で会話する。
時刻は夜だ。
明日になったら結論を出さなければならないが、こんな世界に連れて来ておいてなんだが、出来る事なら茉莉は安全な場所にいてほしいのだ。優柔不断だな。そして我が儘だ。
茉莉「うん、あたしだって頑張らなきゃ駄目だもん。皆も、未来もあたしを助けるためにここまで来てくれたんだから、あたしが体を張らなきゃ駄目だと思う」
夜の闇に沈む庭は静かだ。
たまに風が吹いて、庭園の中央に植えられている気がさわめくくらいだ。
未来「俺はお前を危険な目には合わせたくない」
茉莉「その気持ちはとっても嬉しいよ。でも聞けない」
頑固な茉莉が意見を変える事はない。
言い出したら聞かないなんて事、それは長い付き合いで分かり切っていた事だ、
……だから。
未来「茉莉、俺は世界なんかよりも茉莉が一番大事だ」
茉莉「ふぇ……」
幼なじみの細い肩を掴んで、言葉が届く様にと、意思が届く様にと目っ直ぐに視線をぶつける。
未来「だから、何があっても。死なないでくれ。生きててくれ。俺これからもずっとお前と一緒にいたいんだ」
茉莉「ふぁ……ずっと?」
せめて自分の身を第一に守ってくれとそう伝える。
まだ茉莉が未来に復讐したがっているのか分からない。
だから、死なないでくれと。
茉莉「ずっと一緒にいてくれるってやくそく、してくれたら。……いいよ。もう駄目だって思っても、がんばったげる」
未来「本当か?」
茉莉「うん」
分かった約束する。
そう言って、どちらからともなく小指を近づけて指切りする。
それは幼い頃によくやっていた事だ。
迷子になっていなくなった茉莉を泣き止ませるために、次もちゃんと必ず見つけてやると約束する為のもの。
茉莉「終わったらプレゼントが欲しいな。綺麗な飾りがほしい。未来、選んでねー」
いつもだったらお菓子をねだる所を、そんな約束をして夜のひと時は過ぎていく。
お前の無事がそれで買えるのなら、それくらい安い物だろう。
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