09 変化の力



 町の中に出る前に、茉莉は未来に向けて言った。


茉莉「皆を、あたし達の事信じててね、未来が信じてくれたらきっとあたし達がんばれるから。それだったらもう全部解決したも同然だよ。帰ったら激辛チップス食べたいなー」


 今から考えるには少し気の早い話だな。


 何はともかく、日が暮れかかった町の中。

 打ち合わせ通り攫われた茉莉の行方を、未来達は茉莉が譲渡した羅針盤の力を使て追いかけていく。


 途中誘拐犯達が能力を使って、瞬間移動らしきものを使った時は焦ったが、目的地が分かっていた事もあり、無事に最後まで辿り着く事が出来た。


 すっかり日が暮れてしまっている。途中からは有栖の力で小石を光らせて、気が疲れないようにしながら進んだ。


 一時間ほどかけて、途中明らかに追手を警戒して無駄な経路を挟んで移動していった誘拐犯達はある大きな屋敷の中へと入って行く。


 この辺りの中でも金持ちに部類されるだろう裕福そうな人間がすむ、家の中へ。


 世話になっている城の主から貸し与えられた兵士達数人を、場所が分かってから合図を出して呼び寄せる。

 出来るだけ荒事にはならないように行動するが、念のためだ。


円「金持ちは好きじゃないのよねぇ、アタシ」


 円が横でそんな事を言っているが、お前だってそうだろうと言ってやりたい。


桐谷「ふむ、私は別に嫌いではないよ。どんなものだって人間を見なければ始まらないさ」


 桐谷先輩はやはりしっかりしている。


雪高「でも、偉そうな人間が多いってイメージあるから俺も嫌いだな」

有栖「そうね、私も。私に石を投げてきた奴らの顔は忘れたくても忘れられないもの」


 雪高たちは実体験からくる経験で金持ちが嫌いのようだった。


 取りあえずは、打ち合わせ通りに行くか、とそう思った時だった。兵士の一人が能力を使って、連絡を受けたようだった。

 初めの内は、テレパシーやら何やらで、意思を疎通させているのかと思ったが違う。

 宙に浮いた水にテレビ電話よろしく姿を映すと言う、何ともファンタジーなやり方で情報のやりとりをしているのだ、彼らは。茉莉がいたら喜ぶだろうな。俺の常識は色々と危なくなるが。


 そんな事を考えていると兵士達が、未来達に渋い顔を向けて言葉を掛けてくる。


兵士「先ほど、町に住む者達が数名人質に取られたという連絡が突入作戦はしばらく、見送りに……」


 やられた。

 相手の方が一歩上手だったようだ。





 手を借りておいて、人質なんか無視して行動する。と、言うわけにもいかず、その場で待機せざるを得なかった。やはり協力を願わず、自分達だけで行動するべきだったか。いや、そもそもこんな作戦賛成などしなければ。


桐谷「未来、後悔していても仕方がない。先の事を考えよう」


 桐谷先輩に言われて物思いにふけっていた事に気が付く。


 そうだ、とにかく茉莉をどうにかして助ければ。


雪高「未来兄ちゃんたち、俺のこと忘れてないか」

有栖「それなら雪の力を使えばいいじゃない」


 自慢げに立つ雪高に視線を向ける。

 超能力なのか、この世界の魔法と呼ばれる力なのか知らないが、この異界にきてから雪高はある一つの能力を身につけたようだった。


雪高「こうすれば、怪しまれずに見て来れる」


 目の前で、ビー玉の様な物を出現させると小さな姿が発光。一瞬で体格を変化させ小さなネズミとなったのだ。


有栖「そうね。これなら人間だとは思われないはずよ。やるじゃない。でも、害虫駆除されないように気を付けてよ」

雪高「心配しなくたって大丈夫だよ」

有栖「べ、別に心配何てしてないわよ」


 こんな時まで通常営業で話すなんて余裕だな。


雪高「見ててくれよ。未来兄ちゃん。俺、ちゃんと茉莉姉ちゃん見てくるから」


 雪高は勢いこんだまま、屋敷の方へと走って行ってすぐに姿が見えなくなる。



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