07 1/11(土曜) 鏡面世界



 家の電話がなって眠気に沈み込みそうだった意識が覚醒する。もうそろそろ眠ろうかと思っていたのに。ややあって、両親から呼ばれた。


未来「茉莉が……?」


 熱で寝込んでいるはずの茉莉がいなくなったと電話が来たのは、日付が変わった頃の事だった。

 なんでも、学校に忘れ物をしたとか。べた過ぎる理由だろう。


 警備員なんかにとっ捕まって、さっさと家に戻されていれば良かったのだが、戻ってこないのならば、見つかっていないのだろう。茉莉の癖に。


 慌てて、服を着替えて中学校へ向かう。





未来「それで、何でお前までいる……」


 で、無事に……警備上の理由から言っていいのか分からないが、中学校へと侵入を果たした未来の目の前には、今頃はベッドで眠っていてもおかしくないはずの、雪高だった。


雪高「茉莉姉ちゃんに頼んだ貸した本を返してもらうためだよ。茉莉姉ちゃん熱出してるんだろ? だから明日むりして学校に来なくていい様に回収しに来たんだ」


 二人してこいつらは……。

 それだったら連絡入れで、期間を延長させれば済む話だろうが。


 なんで妙な所で律儀になるんだ。


雪高「えっ、茉莉姉ちゃん、来てるのか。姉ちゃん行動ほんとに予測できないな……」


 長年傍で見てきた未来でも苦労する時がある。

 ともかくさっさと茉莉を回収して帰る為に、学校内を見て周っていく。


未来「……」

雪高「……」


 別にそう言う話しを信じているわけではないの意だが、夜の校舎には毒時の不気味さが満ちていると思う。


 しんと静まり返った校内。非常灯に照らされない闇の中には異形が住んでいてもおかしくはない、そう思わず考えてしまうくらいには。


雪高「あ、今茉莉姉ちゃんの姿が……」

未来「どこだ……」

雪高「たしかこっちに、え……」


 目撃したらしい方向へと歩いていく雪高だが、その足が途中で止まる。何故ならその先は、等身大の鏡だったからだ。


 前方ではないなら、と背後を振り返ってみるが人気はなかった。


雪高「違う。映りこんだんじゃない。俺、ちゃんと鏡の中に見たんだ、茉莉姉ちゃんがこっちを見てるのを」


 青ざめる幸高の言葉を否定する。

 見間違えだろ。


雪高「聞いた事あるんだ。茉莉姉ちゃんの学校には、鏡の奥に別のもう一つの世界があるって、真夜中に鏡を覗き込むと向こうの世界に連れて行かれちゃって、戻ってこれなくなっちゃうんだよ。未来兄ちゃん、どうしよう」


 そんな馬鹿な事があるもんか。

 怪談なんて、根も葉もないただの噂に過ぎない。


雪高「でも……、神隠しの怪異だって……、聞いた事あるなら」


 有栖だったらこういう状況でも現実的な考え方をするだろうが、雪高は茉莉よりの思考をしてるし、普段は茉莉と話す事も多いので、悪く考えてしまっているだけだろう。


茉莉「あれー、未来どうしてここにいるのー?」

雪高「茉莉姉ちゃん。無事だったのか」


 そんな事を証明する様に背後から茉莉が話しかけてくる。


茉莉「んー、あたしは大丈夫だよ。あ、ちょうどいいから雪君に本返すね」

雪高「そんなのどうだっていいよ。何で大人しくしてなかったんだよ」

茉莉「ごめんねー。心配かけちゃって。でもどうしても早く返しとかなきゃって思ったからー」


 年下の小学生に説教される中学生という絵面は中々ないが、ここでじっとしてるわけにもいかない。

 いまだに暗闇でも分かるくらい赤い顔をして頭をふらつかせている茉莉を家に送らねば。


 説教は、雪高が代わりにやっているので今はそんな気に慣れない。治ってからだろう。


茉莉「でもおかしいねー。さっきは、鏡の中に未来達がいる様に見えたんだけど、きのせいだったのかなー」

雪高「え?」

茉莉「ねーって声かけても返事してくれなかったんだよー」

雪高「えぇ??」

茉莉「変だなー」


 早く家に帰って、一応布団に押し込むところまで屋た方がいいかもしれないな。


雪高「未来兄ちゃん、やっぱり鏡の中の世界はあるんだよ」


 馬鹿なこと言ってないで帰るぞ。


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